においのクレーム事例において、そのにおいの表現がアンモニア臭または塩素臭(カルキ臭)とされるような事例は幾つか報告されていますが、原因は必ずしもひとつではありません。
アンモニア臭は、魚肉、獣肉など動物性食品において多く認められます。これは、炭水化物が主体である植物性食品と比べ、動物性食品にはタンパク質や遊離アミノ酸といった窒素化合物が大部分を占めることによります。これらが微生物による腐敗により分解されることにより、アンモニアが発生し、においとして現れるのです。 アンモニアは、アミノ酸からの脱アミノ作用により生産されますが、この反応に関係する経路は、酸化的脱アミノ反応、非酸化的脱アミノ反応、好気的脱アミノ反応、嫌気的脱アミノ反応、分子内脱アミノ反応など様々です。殆どの微生物は、上記に挙げたように複数存在するアミノ酸分解経路のいずれかを有していることから、食品中のアミノ酸は微生物の増殖に伴って分解され、それに伴いアンモニア発生量も増加します。そのため、タンパク質を含む食品については、生産されたアンモニア量を腐敗の指標とする場合が多く、鮮度の指標として用いられる揮発性塩基窒素(VBN)も、その大部分はアンモニア性窒素になります。 なお、同じく動物性食品の腐敗生産物であるアミン類は、アミノ酸の脱炭酸反応により生じます。動物性食品が腐敗した際に、アンモニアまたはアミン類のいずれかが生じるかは、その環境のpHに左右され、塩基性条件下であると脱アミノ反応が促進され、アンモニアが生成します。 また、納豆において、熟成が進みすぎるとアンモニア臭が生じることが知られています。
上記1)で述べたように、微生物によってアミノ酸が分解してアンモニア臭がする事例のほかに、添加物によるものも報告されています。 カステラや菓子パン、ビスケットなどの菓子類などで、塩化アンモニウムを含む膨張剤を使用する場合があります。この際、膨張剤の溶解が不均一なまま生地と混合・焼成すると、発生するガスの分散が旨くいかず、生地内にアンモニアが残存時製造法によってはアンモニア臭がすることがあります。
飲料や食品からの塩素臭クレームが発生する原因には、 (1)製造ラインの殺菌洗浄などに次亜塩素酸などの塩素剤の使用 (2)野菜などの洗浄、漂白に次亜塩素酸塩類を使用する など、いずれも製造工程のどこかで次亜塩素酸などの塩素剤を使用し、それが最終製品において残存する原因とされています。
この例に関しては、それほど頻発する事例ではありませんが、野菜などの残留した農薬のプロチオホス、及びその代謝物である2,4-ジクロロフェノールにより、カルキ臭を感じた事例が報告されています1)。また、食品製造施設において、製造施設の一部にフェノール樹脂を使用しており、施工時の洗浄が不十分であったためフェノール樹脂より多量のフェノール類が溶出、水道水と反応してクロロフェノール類が生成したため、カルキ臭のクレームが発生した事例などがあります2)。
1) 東京都衛生局 生活環境部 食品保健課 編集:食品の苦情 Q&A(追録版).(1994). 2) 荻原 勉 ほか:クロロフェノール類を異臭物質とした甘納豆の苦情事例. 東京都健康安全センター年報54:227-230, 2003.
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