我々が「におい」を感じるには、まずにおい物質が存在せねばなりません。におい物質が気相中で蒸散し、微粒子状或いはガス状となった状態が「におい」です。ヒトの場合は呼気と共に鼻孔(鼻の穴)から導入するか、食事時などに飲食物のにおいを呼気と共に口腔経由で導入するか、いずれかのルートを辿ってにおい物質を体内に導入します。鼻孔付近から咽頭付近の空間である鼻腔に到達したにおい物質は、鼻腔の天井部分にある嗅粘膜の粘液に溶け込みます。嗅粘膜にある嗅細胞には嗅覚受容体、即ちにおいセンサーが存在し、粘液に溶け込んだにおい物質を捕捉します。嗅覚受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属する典型的な7回膜貫通型タンパク質で、リガンドであるにおい分子と結合することで活性化してシグナルが嗅神経に伝達されることにより、最終的に我々は鼻腔内に到達したにおい物質を「におい」として認識することができるのです(この嗅覚受容体の分子生化学的研究により、R.L.Back及びR.Axelは2004年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました)。これまでの研究により、複数の受容体の組み合わせにより、においの種類や強さの感覚が表現され、多種類のにおいの区別が可能であることなどが明らかにされています。 |