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腸管出血性大腸菌O157について
1.はじめに
 梅雨時から秋頃にかけては「食中毒」に関する話題を耳にする機会が多くなる時期ですが、今年は、夏を迎えても新型インフルエンザの話題が多く、食中毒事件や異物、異臭など食品クレームに関する話題が比較的少なかったように思われます。
 そのような中、腸管出血性大腸菌O157に関する報道が9月中旬頃から続いています。メールマガジンとして配信された時には、すでに原因特定がなされ、耳にする機会も減っているかも知れませんが、あらためて「腸管出血性大腸菌O157」についてまとめてみました。
2.腸管出血性大腸菌O157とは
 大腸菌(Escherichia coli)は、ヒトの腸内に常在する細菌の一種で、ほとんどの種類は無害ですが、その中でも特別な型を有し、消化器系に病気をもたらす病原大腸菌と呼ばれる種類があります。病原大腸菌の一種である腸管出血性大腸菌(EHEC:Enterohemorrhagic Escherichia coli)は、赤痢菌と類似したベロ毒素(VeroToxin)を産生し、激しい腹痛と血便、場合によってはHUS(溶血性尿毒症症候群)を引き起こすことが知られています。
 よく耳にする「腸管出血性大腸菌O157:H7」は、EHECの一種で157番目に発見されたO抗原と7番目に発見されたH抗原を合わせもつ種類ということになります。
 腸管出血性大腸菌が食中毒を引き起こすのに必要な菌数は、一般的な食中毒菌と比較すると非常に少なく、数10程度の菌数でも発症することが知られています。発症するのに必要な菌数が非常に少ないことから、腸管出血性大腸菌O157が飲食品等に付着するだけでヒトからヒトへの感染が起こりうることが容易に推測されます。
3.検査方法
 腸管出血性大腸菌O157の検査方法は、平成18年11月2日食安監発第1102004号(腸管出血性大腸菌O157及びO26の検査法について)に記載されています。これによると、腸管出血性大腸菌O157のほかに、血清型O26を検出する方法が定められており、食肉(内臓を含む。)、食肉製品及びチーズ以外の食品については、ベロ毒素遺伝子検出法をスクリーニング法として用いることが可能となりました。詳細な内容はホームページ「5参考資料 2)」に公開されていますが、ここではベロ毒素遺伝子検出法の一つであるLAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法を用いた方法をご紹介いたします。
 食品25gをノボビオシン加mEC培地225 mlに添加し、ストマッカー処理を行った後、 42±1 ℃、22±2時間増菌培養を行います。増菌培養液からDNAを抽出し、抽出したDNA溶液とLAMP法専用の試薬を用いて調製したマスターミックスを混合して反応液を調製します(写真-1参照)。調製した反応液を測定機器にセットし、ベロ毒素(VT)遺伝子の検出を行います(写真-2参照)。
 測定の結果、VT遺伝子が検出されなかった場合「陰性」と判定しこの時点で検査は終了となります。また、「陽性」と判定された場合は、培養法に進みます。図-1及び-2に結果の一例を示しました。検体1)が図-2の「1」及び「2」、検体2)が「3」及び「4」、検体3)が「5」及び「6」、陰性コントロールが「7」、陽性コントロールが「8」に相当します。検査の結果、検体1)〜3)はいずれも「陰性」と判定されました。
 なお、判定までに要する日数は前増菌培養も含めて2日間と迅速な検査方法の一つといえるでしょう。
 
写真-1 反応液の調製 写真-2 測定装置にセット
 
図-1 測定結果(増幅曲線) 図-2 判定結果
4.予防方法
 予防するには、まず相手(腸管出血性大腸菌)を知ることが重要です。腸管出血性大腸菌O157は、75 ℃、1分間以上の加熱で死滅させることが可能です。したがって、加熱が必要な食品については十分に加熱(中心部まで75 ℃で1分間以上加熱)してから食べることを重要です。また、食肉等の生食を控え、加熱不十分な食品を乳幼児や高齢者など比較的抵抗性の弱い方に食べさせない、生肉をさわったお箸やトングは他のものと混用しないなどが効果的な予防法といえます。
 加熱殺菌以外に、食品添加物としてその使用が認められている次亜塩素酸ナトリウムも効果的です。使用方法として、例えば調理に使用したまな板や包丁について、まず市販の台所洗剤で洗浄し、水すすぎ、お湯(55 ℃位)すすぎをした後、次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度200 ppm)に1時間程度「漬けおき」します(漬けおき後の水洗は必要)。
 なお、「漬けおき」する代わりに加熱殺菌ということで沸騰水をかける方法も有効です。
 このように、腸管出血性大腸菌に限らず食中毒予防の基本である細菌を「つけない」、「増やさない」、「殺す」を守ることが何よりも重要です。
5.参考資料
1) 厚生労働省ホームページ 腸管出血性大腸菌Q&A
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/index.html
2) 平成18年11月2日食安監発第1102004号(腸管出血性大腸菌O157及びO26の検査法について) (http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/181121-c00.pdf#search='食安監発第1102004号')
3) 食品衛生検査指針(微生物編)2004 社団法人日本食品衛生協会
4) 食品微生物T 基礎編 食品微生物の科学 清水潮著、幸書房
5) 食中毒の科学-あなたを守る知識ワクチン- 本田武司著、裳華房
以上
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