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農薬等残留基準値と分析対象化合物の関係
 農薬等の残留基準値と分析機関の検査結果を比較し、適否を判断する上でしばしば問題となるのが、検査結果が残留農薬基準値と比較し得る「分析対象化合物」を含む結果なのかどうかということです。特に「多成分一斉分析」がもてはやされる昨今は注意が必要です。「一斉分析」といわれる試験法には限界があること、また、分析機関によってもその「仕様」がさまざまで有ることを理解した上で、検査結果を品質管理に生かしていかなくてはなりません。
 ポジティブリスト化に伴い、効率的に検査を行うために発展した「一斉分析」ですが、厚生労働省通知の「一斉試験法」にも注意点として書かれてあるように「規制対象となる品目には本法を適用できない代謝物等の化合物が含まれる場合があるので留意すること。」が必要です。つまり、一斉分析では規格基準と単純に比較できない結果しか得られない場合が有るということになります。よって、検査成績書に記載された「検査(試験)項目名」が規格基準と比較できるものなのか否かを発行した分析機関によく確認をする必要があります。
 例として、ここ数年、カカオやゴマで違反事例が出ている2,4-Dを挙げます。 通知個別試験法*1には2,4-Dとその塩類及びエステル体が分析対象化合物として挙げられています。そして、試験法中にアルカリ加水分解の行程が存在し、この操作により、全ての形態は2,4-D(酸体)に収斂させ、総量を2,4-D量として含有量を測定します。 一方で、2,4-Dは「LC/MSによる農薬等の一斉試験法U(農産物)」*2にも試験法提示があります。
 しかしながら、この一斉試験法では、加水分解の行程は無いため、この試験法で分析できるのはもともと2,4-D(酸体)の形態のもののみになります。よって、2,4-Dなどは一斉試験法では監視レベルでの検査に止まり、基準値比較には個別試験法が必要となります。 (ただし、過去の経験からは、2,4-D(酸体)が全く検出せずに2,4-Dエステル体が大量に検出するケースはほぼ有りません、しかし、加水分解行程を行うと値が2倍程度になることは散見されます。)
 2,4-Dのように決まった個別分析法を選択しないと規格基準と比較できないものの他にも一斉分析では規格基準と比較できないものには「必要な分解物もしくは代謝物が測定できない場合」「必要な異性体の全てが測定できない場合」などが有ります。

 また、別に一斉分析では、分析対象化合物を「過剰に分析対象化合物を測りこんでしまう場合」もあります。
 例としては、「ジクロルボス及びナレド*3」「トリクロルホン」の関係です。
 「ジクロルボス」が一斉分析で基準値を超える検出が有った場合は「ジクロルボス」の他に「トリクロルホン」のGC分析時の分解由来の「ジクロルボス」検出も疑わなくてはいけません。「ジクロルボス及びトリクロルホン試験法」*4では、GC分析前に誘導体化を行い、ジクロルボスへの分解を抑えるため、ジクロルボスの定量結果に影響は及ぼさないですが、一斉分析ではトリクロルホン分解由来の「ジクロルボス」による検出の可能性があります。

このように特に一斉分析(個別分析も例外ではないですが)では、その分析機関の「検査仕様」
どこまでの分析対象化合物を測定しているのか
その試験法でどこまでの測定が出来ているのか
をよく確認することが必要と考えられます。
「検出せず」や「基準値内」の並んだ成績書はうれしいものですが、検査仕様による「一見不検出」や「一見基準値内」の場合も有り得ます。本来の意味での「リスク」低減のためにも「分析対象化合物」を中心とした検査仕様を分析機関に確認することは非常に重要なことだと考えられます。
*1 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/2-002.html
*2 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/3-003betu.html
*3 ナレドはGCで分解され、ジクロルボスとなるため基準値の品目名は「ジクロルボス及びナレド」となっている。(実際にはナレドが分解して、100%ジクロルボスに変換するのは困難なのだが)また、トリクロルホンも一部が分解され、ジクロルボスの定量値に影響を与えることが有る。
*4 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/2-069.html
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