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中華人民共和国「食品安全法」について
アジア食品安全研究センター 技術顧問 佐藤元昭
はじめに

 中華人民共和国食品安全法は2007年10月31日に国務院常務委員会にて法案採択され、全国人民代表大会常務委員会の審議や2度にわたるパブリックコメントによる手直しがなされた。その後、2009年2月28日付けで胡錦涛国家主席令第九号として公布され、2009年6月1日から施行された。
 従来は、食品安全にかかわる部局が衛生部、農業部、質量監督検験検疫総局、工商行政管理総局、食品薬品監督管理総局の5部署が独立に存在していた。そして、各部局がそれぞれ独立に施策を講じており、相互の連絡や統一性が欠けているとの批判があった。これらの問題を整備・統一し、それぞれの責任を明確にし、食品の安全に法的な保障を与えたものが本法であるといわれている。
 本法の特徴は、食品安全委員会を設立すること、食品安全上のリスク評価と監視制度を導入すること、食品の生産・販売を許認可制にすること、食品の回収制度を確立したこと、無登録の如何なる食品添加剤も使用してはならないこと、如何なる食品も検査を免除されないこと、保健食品が治療効果を宣伝してはならないこと、食品標準の一本化、被害者に10倍の賠償を要求する権利があること等多くの改革を盛り込んだ事であろう。
 幸いにも最近になって、弁護士法人三宅法律事務所の(仮訳)やジェトロによる翻訳を入手したので、これらを参考にして筆者が興味を持った部分の一部を紹介する。

1、食品安全法成立までの経緯
2007年10月31日
      12月26日
国務院常務委員会にて法案採択
全国人民代表大会常務委員会審議
2008年04月25日 草案公告 パブリックコメント募集(2回)
(地方政府の責任の明確化、罰則の強化、統一基準の制定、
問題商品の回収等数箇所の修正実施)
2009年02月28日 全国人民代表大会常務委員会第七回会議採択
中華人民共和国主席令第9号として公布
2009年06月01日 施行
2、食品安全法の構成
第一章 総則(第一条 〜 第十条)
第二章 食品安全の危険性の監視と評価(第十一条 〜 第十七条)
第三章 食品安全基準(第十八条 〜 第二十六条)
第四章 食品生産経営(第二十七条 〜 第五十六条)
第五章 食品検査(第五十七条 〜 第六十一条)
第六章 食品輸出入(第六十二条 〜 第六十九条)
第七章 食品安全事故処置(第七十条 〜 第七十五条)
第八章 監督管理(第七十六条 〜 第八十三条)
第九章 法律責任(第八十四条 〜 第九十八条)
第十章 付則 (第九十九条 〜 第一百零四条)
3、各章の概要
第一章 総則
第1条 食品の安全を保障し、人民の健康と生命の安全を保障するために本法を制定する。
第4条 国務院に食品安全委員会を設置する。
第5条 地方人民政府はその行政区域の食品安全監督管理の責任を負う。
第7条 食品業協会は業界の自律を強化し経営者の順法を導き業界の信頼構築を推進し、
食品安全知識の普及宣伝を行わなければならない。
第10条 如何なる個人・組織も本法違反を告発する権利を有す。
第二章 食品安全の危険性の監視と評価
第11条 国家は食品安全上のリスクの監視制度を構築し、食品による疾病や食品汚染、食品中の有害要因を監視・測定する。
第13条 国家は食品安全リスク評価制度を構築し、食品中の生物・化学・物理的危険性を評価する。評価は科学的であるものとする。
第16条 リスク評価結果は食品安全基準の制定、改正、監督管理の科学的根拠である。食品が安全でないとの評価を得た場合は、直ちに生産を停止し、消費者の食用防止を告知しなければならい。
以下省略
第三章 食品安全基準
第19条 食品安全基準は強制的基準であり、食品安全基準を除き他に強制基準を制定してはならない。
第20条 食品安全基準は,下記項目を包含する。
・病原性微生物・残留農薬・動物用医薬品・重金属 ・汚染物質およびその他人体に有害な
 物質の限度量規定。
・食品添加物の使用範囲と使用量。
・乳幼児食品・特定補助食品の栄養成分の基準。.
・ラベル・標識・説明書を添付すること。
第21条 食品安全の国家基準は国務院の衛生行政部門が責任を持って制定し、公布する。
第22条 現行の食用農産品品質安全基準、食品衛生基準、食品品質基準、食品関連業界基準等を統合し、食品安全国家基準として統一する。国家基準が公布されるまでは現行の基準に従って生産・経営をしなければならない。
第24条 省、自治区、直轄市の人民政府衛生行政部門は(国家基準がない場合は)本基準を参考にして食品安全地方規準を制定できる。
第26条 食品安全基準は無料で閲覧させなければならない。
第四章 食品生産経営
第27条 食品生産経営は食品安全基準に適合しなければならず、以下の要求を満たさねばならない。
第20条 食品安全基準は,下記項目を包含する。
・食品経営の種類や数量に応じて原材料処理、加工、包装、保管等の場所を有し、その
 場所の環境を清潔に保ち、有毒・有害な場所や汚染源との距離を置くこと。
・食品の種類や数量に対応した消毒・更衣・手洗い・採光・通風・防腐・防塵・防蝿・防鼠
 防虫廃水処理・廃棄物処理等の設備を備えなければならない。
・加工食品や直接口に入る食品、原料、製品等が有毒物や不潔なものに汚染されない
 ような設備を備えなければならない。
・用水は生活飲用水の基準を満たさねばならない。
・洗剤や消毒剤は人体に安全で無害でなければならない。
第28条 以下の食品の生産、販売を禁止する。
・非食用原料、非食品用化合物添加、及び回収食品を原料とした食品
・病原菌、残留農薬、重金属、汚染物等人体に有害な物質が国家基準を超過して含まれ
 る食品
・栄養成分が安全基準に適合しない乳幼児食品
・腐敗、変質、異物混入等異常食品
・病死、毒死、原因不明死した動物等の肉類・製品
・動物検疫検査を受けないか不合格な肉類
・偽物食品、表示ラベルの無い食品、汚染された包装材料等
・食品安全基準に合致しない食品
第29条 食品の生産経営業者、流通業者、飲食業者は国の許可を得なければならない。
第32条 食品生産経営者は食品安全管理制度を構築し食品安全教育を強化し食品安全管理者を配置しなければならない。
第34条 食品生産経営者は従業員の健康管理制度を構築し、食品安全に係わる疾病保持者に食品生産をさせてはならない。
第38条 食品関連製品の生産者は食品安全基準に基づいて製品の検査を実施しこれに合格しなければ出荷・販売をしてはならない。
第42条 定型食品の包装には以下の項目を記載したラベルをつけなければならない。
・名称、規格、含有量、製造日
・成分もしくは配合量
・生産者の名称、住所、連絡法
・保障期間
・生産許可番号
・その他食品安全基準に表示が義務付けられた事項
以下省略
第46条 食品生産者は食品安全基準に定められた規定に従って食品添加剤を使用しなければならず、食品添加剤以外の化学物質や有害物質を食品の生産に用いてはならない。
第53条 国は食品のリコール制度を設立する。食品生産者は生産した食品が安全基準と合致しない場合は生産を停止し、食品を回収し、消費者に通知し、回収状況を記録しなければならない。
第54条 広告は虚偽、誇張の内容を含んではならず、疾病予防や治療効能と係わってはならない。
以下省略
第五章 食品検査
第57条 食品検査機構は国務院の衛生行政部門の制定する規定に従って資質認定を受け検査活動に従事できる。
第58条 食品検査は食品検査機構が指定した検査員の責任により法規に従い科学を尊重し、客観的、公平に保障されなければならず、検査結果に責任を負う。
第60条 食品安全監督管理官庁は食品の検査を免除してはならない
(優良企業への「免検」制度は08年10月に廃止された:筆者)
第六章 食品輸出入
第62条 輸入する食品、食品添加剤及び食品関連製品は食品安全基準に一致しなければならない。
第66条 輸入する包装食品には中国語のラベル・説明書をつけなければならない。説明書は中国の法規の規定及び安全基準の要求を満たさねばならない。
第68条 輸出食品出入国検査検疫部門が監督、検査を行い、税関は通関証明に基づいて輸出を許可する。輸出食品の生産企業と原料の栽培・養殖を行う場所を届出なければならない。
以下省略
第七章 食品安全事故処置
第70条 国務院は国家食品安全事故応急案を策定する。地方人民政府は事故応急案を策定し、一級人民政府に報告する。
第71条 食品安全事故が発生した場合、直ちに処置し、事故の拡大の防止をすると共に速やかに発生地の食品衛生行政部門に報告しなければならず、如何なる組織・個人も事故を隠蔽、虚偽報告、報告遅延、現場や証拠破壊をしてはならない。
第72条 県級以上の地方人民政府の衛生行政部門は、事故の通報を受けた場合直ちに、農業行政、品質監督、工商行政管理、食品薬品監督管理部門と共同で調査・処置し、以下の措置を行って危害の防止、軽減に努めなければならない。
・応急救援業務を行い、被障害者の救助と治療を行う。
・事故を引き起こす恐れのある食品・原材料を密封保存し即時に検査を行い、
 確認された場合は経営者に対し回収・経営停止・廃棄を命じる。
第75条 食品安全事故調査において、審査承認と監督管理部門の人員の職務怠慢、汚職の状況を明確にする。
第八章 監督管理
第76条 県級以上の地方人民政府の衛生行政、農業行政、品質監督、工商行政管理、食品薬品監督管理部門はその区域の食品安全年度監督管理計画を策定しなければならない。
第77条 県級以上の地方人民政府の衛生行政、農業行政、品質監督、工商行政管理、食品薬品監督管理部門は職責に応じて現場検査、サンプリング検査、書類・帳票その他の資料の閲覧複写、証拠食品・原料・添加剤・設備・道具の差押え、押収、並びに生産経営の場所を差押える事が出来る。
第80条 県級以上の地方人民政府の衛生行政、農業行政、品質監督、工商行政管理、食品薬品監督管理部門は相談、苦情、告発を受けた場合職責の範囲に属するものは受理し、適時に回答、確認、処理しなければならず、責任を擦り合ってはならない。
第81条 同一の違法行為に対し2回以上の罰金に処してはならない。
第82条 国は食品安全情報を統一して公布する。国務院衛生行政部門は下記の情報を統一的に公布する。
・国の食品安全状況、リスク評価情報、リスク警告情報、重大な食品安全事故及びその処理情
 報、その他重要な食品安全情報及び国務院が定めた統一的公布が必要な情報
以下省略
第九章 法律責任
第84条 本法に違反して無許可で食品生産経営活動もしくは食品添加剤を生産した場合は、違法収入と違法製造食品、原材料、食品添加剤、製造設備等を没収する。違法に製造した食品、食品添加剤の価格が1万元以下の場合は、2千元以上5万元以下の罰金を課す。1万元を超える場合はその価値の5倍以上10倍以下の罰金を課す。
第85条 本法に違反して以下のいずれかの事項がある場合は、違法収入と違法製造食品、原材料、食品添加剤、製造設備等を没収する。違法に製造した食品、食品添加剤の価格が1万元以下の場合は、2千元以上5万元以下の罰金を課す。1万元を超える場合はその価値の5倍以上10倍以下の罰金を課す。情状が重大な場合は許可を取り消す。
・非食品原料を用いて食品を生産し、または食品添加剤以外の化学物質を加え、あるいは回
 収食品を原料にした食品生産。
・病原微生物、残留農薬、残留動物薬、重金属、汚染物質、及び人体に有害な物質が食品安
 全基準の限度量を超えた食品。
・栄養成分が基準に合致しない乳幼児食、特定食品・補助食品。
・腐敗変質、油脂分解、かび、虫、汚染不潔、異物混入等異常食品。
・病死、毒死、死因不明の家禽・家畜・水産動物の肉類と製品。
・動物検疫を受けないか不合格な肉類及びその製品。
・品質保証期間を超えた食品。
・国家が禁止した食品。
・安全性評価を受けていない新食品材料及び添加剤を使用した食品。
・回収命令を受け、回収されない食品。
第86条 本法に違反して以下のいずれかの事項がある場合は、違法収入と違法製造食品、原材料、食品添加剤、製造設備等を没収する。違法に製造した食品、食品添加剤の価格が1万元以下の場合は、2千元以上5万元以下の罰金を課す。1万元を超える場合はその価値の5倍以上10倍以下の罰金を課す。情状が重大な場合は営業停止または許可を取り消す。
・容器、包装、運輸手段等で汚染された食品。
・ラベルが無いかラベルが本法に合致しない食品や添加剤。
・本法と一致しない原料、添加剤等を使用した食品。 ・薬品を添加した食品
第87条 本法に違反して以下のいずれかの事項がある場合、是正を命じ警告する。これを拒む場合、2千元以上5万元以下の罰金を課す。情状が重大な場合は営業停止を命じ、または許可を取り消す。
・食品原料、製品、添加剤、関連製品の検査をしない場合。
・検査記録、出荷検査記録制度を確立せず遵守しない場合。
・製品及び説明書が疾病予防や治療効果に係わった場合。
・伝染性及び食品安全に支障を及ぼす疾病をもった人員を食品に接触する業務に
 従事させた場合。
以下省略
第88条 食品安全事故の発生を報告しなかった場合是正を命じ警告する。関連証拠を破棄した場合は操業停止を命じ、2千元以上5万元以下の罰金を課す。情状が重大な場合は許可を取り消す。
第92条 許可を取り消された組織と責任者は処罰の決定後5年間は食品生産管理事業に従事できない。禁止された人員に管理業務をさせた場合は許可を取り消す。
第93条 食品検査機構、検査人員が虚偽の検査報告書を発行した場合、検査資格を取り消し、検査機構の直接担当責任者及び検査人員に対し解雇、免職とする。刑事処罰もしくは解雇処分を受けた人員はその後10年間は検査業務に就いてはならず、これを雇用した場合は検査機構の資格を取り消す。
第95条 県級以上の地方人民政府が職責を履行せず重大な食品安全事故が発生し、重大な社会的影響をもたらした場合、重大過失の記録、降格、免職もしくは除名とする。 県級以上の地方人民政府が職責を履行せずもしくは職権乱用、職責怠慢、着服を行った場合、直接担当責任者及び他の直接責任者に対し重大過失の記録、降格とする。重大な結果をもたらした場合は免職、除名とし、主な責任者は引責辞任しなければならない。
第96条 本法の規定に違反し人身・財産その他の損害をもたらした場合は賠償責任を負わねばならない。消費者は損害賠償請求のほかに支払い金額の十倍の賠償を求めることができる。
以下省略
第十章 付則
第99条 用語の定義他
第104条 「中華人民共和国食品衛生法」は同時に廃止する。
おわりに
 従来の中国の法令には、筆者の独断ではあるが、どちらかというと「指導」・「教育」・「監視」・「監督」・「管理」といった、上から下への一方的な流れが根底にあったように思う。しかし本法では、第10条「如何なる個人・組織も本法の違反を告発する権利を有す」、第71条「如何なる組織・個人も事故を隠蔽、虚偽報告、報告遅延、現場や証拠破壊をしてはならない」、第95条での地方人民政府の職務怠慢や職権乱用に対する厳しい処罰の制定、そして第96条では「消費者は損害賠償請求のほかに支払い金額の10倍の賠償金を求めることができる」などとして、食品安全を通して消費者保護の立場をより明確に打ち出している。これらのことから中国政府の食品安全への強い決意を窺えるように思う。
 本報は筆者の興味と独断に基づいて選択し、紹介したものである。本法の詳細をお知りになりたい場合は、弁護士法人三宅法律事務所の(仮訳)、ジェトロによる翻訳及び、中国語の原文等の参考資料をご覧になることをお勧めする。

参考資料
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/lfgz/zxfl/2009-02/28/content_1476576.htm
http://www.china-embassy.or.jp/jpn/xwdt/t539814.htm
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