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ペットフード安全法の成立と今後について
環境省自然環境局総務課動物愛護管理室 専門官 荒巻まりさ
はじめに
 ペットフードの安全性を確保するために製造等に関する規制を行う「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法:農林水産省・環境省共管)」が平成20年6月に成立し、平成21年6月1日から施行されることとなりました。これまで、我が国に安全性の観点からペットフードを規制する法律は存在せず、事業者の自主的取組に委ねられてきましたが、今後事業者は法律を遵守する必要があります。本稿では、この新しい法律について概要を紹介したいと思います。
法律成立の背景
 近年、ライフスタイルの変化により、ペットは国民の生活において重要な位置を占めるものとなっています。ペットフード工業会の調査によると、平成20年の犬と猫の飼養頭数(推計)はおよそ2,800万頭とされ、日本の未成年者(20歳未満)約2,400万人という数字も上回っている状況です。また,ペットを飼育できるマンションもここ数年で劇的に増加し,首都圏の新築マンションの7割以上が飼育可能とされていることにも、ペットへの国民的関心の高まりがうかがえます。
 このような中で、平成19年3月、米国において、メラミン(食器等に利用されるメラミン樹脂の主原料となる有機化合物)が混入した中国産原料を用いたペットフードにより、犬・猫に大規模な健康被害が発生しました。また、同年6月には、日本国内にも米国で回収対象となっていたペットフードが並行輸入により流通していたことが判明し、販売業者によって自主的に回収がなされました。
 農林水産省の関係団体に対する注意喚起や事業者の積極的な回収等の対応もあり、日本国内ではメラミンが混入したペットフードによる健康被害事例は報告されていませんが、輸入食品等への安全性に対する国民の不安が高まっていた当時、法的規制がないペットフードの安全性についても国民の不安が高まりました。
 このため、政府内でペットフードについて規制する法律の必要性が議論され、同年8月には、家畜用飼料を所掌する農林水産省と動物の愛護を所掌する環境省が「ペットフードの安全確保に関する研究会」を共同で設置し、獣医師、弁護士、消費者団体、行政担当者等の有識者にペットフードの安全性を確保するための方策について幅広く御議論いただきました。研究会では、動物愛護の観点からペットフードの安全確保に緊急に取り組むべきであり、法規制の導入が必要であるとの報告がとりまとめられました。
 環境省及び農林水産省は、これを受けてペットフード安全法案を共同で作成し国会に提出、法律は平成20年6月に成立しました。
法律の概要
 ペットフード安全法は、製造、輸入、販売に関する規制を行うことにより、ペットフードの安全性の確保を図り、ペットの健康を保護して動物の愛護に寄与することを目的とします。なお、本法律の対象となる動物の種類は、流通実績や問題発生の実態等を踏まえ、政令で犬及び猫と定めています。
 規制の構成や仕組みは、家畜飼料を対象とする「飼料安全法」等を参考にしてつくられており、概要は以下のとおりです(参考:制度の概要(PDF:106KB))。
→ (1) 基準・規格の設定及び製造等の禁止
農林水産大臣及び環境大臣は、ペットフード(愛がん動物用飼料)の基準・規格を定め、当該基準又は規格に合わないペットフードの製造、輸入、販売を禁止する。基準としては「製造方法の基準」と「表示の基準」、規格は「成分の規格」を設定する。
→ (2) 有害な物質を含むペットフードの製造等の禁止
農林水産大臣及び環境大臣は,基準規格の対象外の有害な物質を含むペットフードが見つかった場合、その製造、輸入、販売を、緊急避難措置として禁止することができる。
→ (3) ペットフードの廃棄等の命令
農林水産大臣及び環境大臣は、(1)及び(2)のペットフードが流通した場合、製造業者、輸入業者、販売業者に対し、廃棄、回収等必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
→ (4) 製造業者等の届出、帳簿の備付け
製造業者、輸入業者は、農林水産大臣及び環境大臣に、氏名、事業場の名称等を届け出なければならない。
また、製造業者、輸入業者、販売業者(小売業者を除く。)は、販売等をしたペットフードの名称,数量等を帳簿に記載する義務が生じる。
→ (5) 報告徴収,立入検査等
農林水産大臣又は環境大臣はペットフードの製造業者、輸入業者、販売業者等から報告徴収を求めるとともに、製造業者、輸入業者、販売業者等への立入検査等を行うことができる。なお、立入検査等は(独)農林水産消費安全技術センターも行うことができる。
基準・規格の設定
 農林水産大臣及び環境大臣が成分規格、製造方法基準及び表示基準を設定するにあたっては、法律に基づき農業資材審議会及び中央環境審議会の意見を聴くこととなっています。平成20年8月から平成21年3月にかけて、両審議会の合同会合を3回開催し、6月1日の施行にむけて設定する基準・規格について答申を得ました。その答申を踏まえ、4月28日に基準・規格を定める省令を公布したところです。基準・規格の概要については、以下のとおりです。なお、成分規格と製造方法の基準については法律の施行から6ヶ月、表示の基準については18ヶ月の経過措置を設けています。
→ (1) 成分規格
それぞれの成分の含有量について規定値を超えてはならない。
分 類 物質等 基準値(ppm)
かび毒 アフラトキシンB1 0.02
農薬 グリホサート 15
クロルピリホスメチル 10
ピリミホスメチル 2
マラチオン 10
メタミドホス 0.2
添加物 エトキシキン・BHA・BHT 合計で150
(犬用ペットフードではエトキシキンの含有量は75ppm以下)
→ (2) 製造方法の基準
有害な物質を含み、若しくは病原微生物により汚染され、又はこれらの疑いがある原材料を用いてはならない。
加熱又は乾燥するにあっては、微生物を除去するのに十分な効力を有する方法で行うこと。
プロピレングリコールは、猫用のペットフードには用いてはならない。
→ (3) 表示の基準
ペットフードには、(1)名称、(2)原材料名、(3)賞味期限、(4)事業者の氏名又は名称、住所、(5)原産国名を表示しなければならない。
法律の施行に向けて
 現在、環境省及び農林水産省では、平成21年6月1日から本法律が施行されるにあたり、必要な体制の整備を進めているところです。具体的は、立入検査を実施するにあたってのモニタリング手法等の確立、獣医師や地方公共団体等の関係者との連携体制整備など、新規の法律が円滑に施行されるよう、関係者の協力を得ながら進めています。
 また、基準・規格についても引き続き科学的知見の収集に努め、新たな知見が得られた場合には、専門家の意見を聴きながら見直しを検討していきたいと考えています。
著者略歴
平成12年に東京大学大学院農学生命科学科修士課程を修了、環境省勤務。
平成19年9月より、現職においてペットフード安全法を担当。
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