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7Sについて
1.はじめに

 「食品7S」は、本年3月に近畿大学農学部教授を退官された米虫節夫先生が提唱されている。食品衛生においては大量にしかも同時に危害を与えることから微生物による汚染対策が最も重要であることはいうまでもない。微生物レベルの清潔を得ることが「食品7S」の目的となる。「食品7S」を取り組むことはHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)やISO22000(食品安全マネジメントシステム)を構築していく上で橋渡し的な役目をはたす。つまり「食品7S」が実践されていないと食品製造工程で必要な食品安全を確保することはひじょうに難しい。本号では、「食品7S」とはどのようなものであるかご紹介させていただきます。

2.食品7Sとは
 整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、しつけ(Shitsuke)をローマ字で書くと頭文字が全て「S」であるために、これらは「5S」と呼ばれる。今や海外でもカイゼンと共に5S(Five S)という言葉も浸透しているときく。ところが5S活動を食品工場に導入した場合、うまくいかないケースが多い。これは工業用途では見た目に清潔であっても微生物レベルでの清潔では不適切ということが理由である。従って上述のように食品産業で最も重要な要素は微生物による汚染の排除であり、これを達成するために考えられたのが「食品7S」である。
 食品7Sは、整理、整頓、清掃、洗浄、殺菌、しつけ、清潔の7つの「S」により構成される。食品工場内に5Sのポスターを掲示し活動を行ってはいるものの問題点が多い場合があるが、この場合はそれぞれのSの意味を十分理解しないまま活動を行っていることが殆どである。食品7Sを構成するそれぞれの項目を次に示す。
→ 1) 整理とは、要・不要を区分けして不要を処分することである。整理されていないと必要以上にモノが現場に溢れてしまう。
→ 2) 整頓とは、必要なものを定置すること。つまり決まった場所に決められた置き方をし、いつでも必要なものがすぐに取り出せるようにする。整頓がされていないとすぐに必要なものが整わないため、必要なモノを探したり、ムダな運搬作業をするために時間を費やすことになる。探しのムダや運搬のムダは一人あたり一回数分程度だったとしても、それが一日数回、さらに従業員数で考えると年間で多くの貴重な時間を失っていることになる。経営者にとってこれらは固定費として労務コストに直接影響してくるので無視はできない。
  これら整理や整頓は、次の清掃や洗浄が行いやすくするために必要な条件である。
→ 3) 清掃とは、ゴミやほこりがないように掃除をすることである。
→ 4) 洗浄とは、食品7Sでは湿潤環境での清掃のことを指す。洗浄により微生物による汚染を完全ではないが低下させることができ、その次に示す殺菌作業の効果をあげることに重要な要素となる。
→ 5) 食品7Sでいう殺菌とは、全ての微生物制御方法を含めたものを指す。つまり静菌、除菌、消毒、殺菌、滅菌などの作業をまとめたものである。ちなみに静菌とは微生物の増殖を抑えること、除菌とは対象から微生物を除去すること、消毒とは病原微生物のみを対象とする殺菌、殺菌とは微生物数を減少させること、滅菌とは培養法で検出される全ての微生物を殺滅・除去することとされている。1)
→ 6) しつけとは、職場のルールや規律を徹底し、守ることである。決めたルール、基準が守られて初めて7Sが生きてくる。
→ 7) 清潔とは、微生物レベルでのきれいな状態のことをさす。清潔は、整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・躾ができて、初めて到達できる。
  これら7つのSをまとめたものが以下の概念図になる。1)
 
3.食品7Sによる危害の排除
 安全を得るために排除しなければならないものして危害がある。危害は以下の3つに大別される。
→ 1) 物理的危害:異物混入(原材料由来、施設・設備等の破損、鼠族や害虫等)
→ 2) 化学的危害:洗浄剤や殺菌剤の混入、計量ミスによる食品添加物の過剰使用
→ 3) 生物的危害:微生物汚染(交差汚染、洗浄不足、殺菌不良等)
これらの多くは食品7Sの実践により排除され、問題の発生を防止することができる。
4.食品7Sの効果
 食品7Sの取り組みによる効果を以下に示す。
→ 1) ムリ・ムダ・ムラが取り除かれることで生産性が向上し、在庫が削減される。
→ 2) 食品衛生に対する作業者の意識が向上する。
→ 3) 食品衛生に向けた作業者の自主的な取り組みが進む。
→ 4) 3)の取り組みは1人でできないこともあるため、チームワークが芽生える。
→ 5) 上記効果から製品の品質が向上し、クレームが減少する。
→ 6) 歩留りが安定し、かつクレームが減少することでムダな経費が削減され、利益増が実現可能となる。
5.新たな5つのSの達成
→ 1) Sales:販売力
クレームが少ないことにより、営業員も自社ブランドに自信がもて、販売力が強化される。
→ 2) Saving:節約
しつけ(日常点検のルール)が定着し、機器の耐久年数の延長による節約が実現する。
→ 3) Safety:安全
同じくしつけ(日常点検のルール)が定着した機器の点検により労働面での安全も確保される。
→ 4) Standardization:標準化により決められたことが正しく運用され、コストも安定する。
→ 5) Satisfaction:満足感
クレームやトラブルが少なく、売上や利益が増えることで従業員全体に充足感や達成感が得られる。みんなでやればできるというやる気に満ちた職場環境になる。
6.食品7Sが不十分であったことが原因で発生した問題の実例
→ 1) 期限切れ原材料が発見されたケース
 当財団で施設の衛生調査を行っている際に冷蔵庫内で期限切れの原材料が発見された。原材料別に仕分けされない状態で乱雑に山積み保管されており、期限が表示された商品ラベル部分が見えにくい状態であった。つまり整理が不十分であったことが原因であった。まず原材料別に仕分けを行い、保管用のラックに原材料名の識別を行い、必ず決められた場所に保管するルールを設けた。さらに開封日と使用期限日の見える化を行うことで誰もが一目で確認することができ、過剰在庫の防止にもつながった。
→ 2) 異物クレームが発生したケース
 未開封品の製品表面に淡青色の繊維状の異物が発見され、カビではないかとのクレームが発生した。当財団で異物検査を行った結果、カビではなく合成繊維(ナイロン)であることが判明した。未開封品の製品から発見された点から、流通段階や消費者の手元で混入したのではなく、製造ラインでの混入の可能性が疑われた。原因究明のために製造工場内を調査した結果、作業着がナイロン製であり、色調が異物と一致した。さらに作業者数名の作業着にほつれが発見された。作業室へ入室する際のローラーかけや身嗜みに関するルールが明確に定められておらず、また記録もされていなかった。入室時のルールを手順化し、また作業中に一定時間ごとに監督者が作業者全員の作業着をローラーかけするという仕組みをつくった。後日検証を行ったところ、定めたしつけの有効性が確認された。
→ 3) 期限設定のための保存検査の結果が芳しくなかったケース
 当財団にて期限設定のための科学的根拠として保存検査を行った際に、現在の期限設定が妥当でないという結果が判明した。該当施設に赴き、次の調査を行った。
(1)原材料の受入基準と保管管理方法
(2)従業員の原材料及び製品に対する衛生的な取扱い方法
(3)製造工程における管理基準の内容
(4)製造後の製品の保管管理方法
(5)施設内の設備・機器・器具の清掃・洗浄・殺菌方法の妥当性確認
(6)製品設計や製造条件の妥当性確認
調査の結果で究明された原因の多くは食品7Sにより改善することができた。
7.まとめ
 食品衛生7Sには、ISO22000(食品安全マネジメントシステム)前提条件プログラム(PRP:Pre-Requisite Programs)の要求事項が含まれている。また最近各自治体が地域の食品事業者の品質レベルの底上げを目的にHACCPシステムを導入した独自の認証制度を設けているところが増えている。これらの要求事項についても食品7Sが基本的かつ重要な部分を占めており、食品7Sがきちんと実践できていないと認証を取得するための条件を満たすことができない。つまり食品7Sはあらゆる品質保証体系の仕組みを構築するための土台となり、食品7Sなくして食品の安全を確保することはありえないということになる。なお、当財団では、食品製造工場内での安全確保のために検査によるリスクの定量評価とハザードの排除を目的に食品7Sを基軸としたコンサルティングを組み合わせたサービスを提供しており、本号で紹介した食品7Sの導入により現在抱えている問題点の解決につながれば幸いである。
参考文献
1)米虫節夫編:「食の安全を究める食品衛生7S(導入編)」,日科技連出版社,2006.
以 上
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