財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 食品の表示、そして偽装を見破る技術
食品の表示、そして偽装を見破る技術
独立行政法人 農林水産消費安全技術センター(FAMIC) 表示監視部長 植木隆
1.食品の表示はなぜ必要か

 食品の表示は何故必要なのだろうか。輸送技術の進歩とともに、今では世界中の食材(野菜、肉、魚)が当たり前のようにスーパーに並んでいる。そして消費者に選んでもらうため、様々な食材を加工し、味覚、保存性、簡便性等を向上させた食品が流通している。
消費者は、食品の生産・製造の現場がますます見えにくくなった状況の中で、いわゆる本場物指向、食品によるアレルギー問題、食品に関する事件の発生などにより、産地や原材料等の情報を求めている。これら情報を伝えるものが食品表示である。

2.我が国の表示ルール
 一般に、事業者は食品に関する豊富な知識と情報を持っており、多くの消費者に商品を選択してもらえるよう上手に(優良誤認すれすれで?)PRしたいと考えている。事業者がそれぞれの流儀で情報を表示すれば消費者にとって判断しにくいものとなる可能性がある。それを防ぐために食品の表示制度(ルール)が存在する。
食品に関する様々な規格や基準を定めているコーデックス委員会は、包装された食品について、名称、原材料名、正味量と固形量、製造業者等の名称と住所、生産国、期限表示と保管方法、使用方法等の表示を求めている。(包装食品の表示に関する一般規格)
日本の主要な表示ルールは、一般消費者の選択に資することを目的としたJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)と、食品衛生上の危害の発生防止を目的とした食品衛生法である。
(1)JAS法
生鮮食品、加工食品、遺伝子組換え食品等のカテゴリー毎に表示ルールを定めている。
ア 生鮮食品(生鮮食品品質表示基準)
 表示事項は名称と原産地である。水産物は、更に、解凍、養殖の場合はその旨の表示が必要となる。原産地表示は、平成8年、輸入が増加していたしょうが等5品目に義務化され、平成12年に全ての生鮮品(農産物、畜産物、水産物)が対象となった。
イ 加工食品(加工食品品質表示基準等)
 一般ルールと個別ルール(しょうゆ等54品目)が定められている。一般ルールは、表示事項を、名称、原材料名(食品添加物以外と食品添加物に区分し、それぞれ重量割合の多いものから順に記載)、内容量、賞味(消費)期限、保存方法、製造業者等の氏名及び住所としている。(これらは、商品名が表示されている面とは反対の面に四角い枠で囲まれて表示されることが多い。)
個別ルールは、例えば、果実の搾汁だけを使用したものは○○ジュース(ストレート)、還元果汁を使用したものは○○ジュース(濃縮還元)の名称を表示する等を定めている。(果実飲料品質表示基準)
原料原産地の表示は、平成13年に梅干し等を対象に初めて義務化され、現在、生鮮品に近い”乾燥きのこ類、乾燥野菜及び乾燥果実”等の20食品群と「うなぎ加工品」、「かつお削りぶし」、「農産物漬け物」及び「野菜冷凍食品」(いずれも国内で製造された場合)が対象となっている。表示するのは原材料に占める重量割合が50%以上の主な原材料である。
ウ 賞味(消費)期限
 消費期限は傷みやすく品質が急速に劣化する食品(弁当、生めん類等)が対象であり、期限を過ぎたら食べない方が良い期限である。賞味期限はおいしく食べることができる期限であり、この期限を過ぎてもすぐ食べられないということではない。(食品衛生法でも同様に規定。)
(2)食品衛生法
 食品衛生法は、表示に関して、名称、非加熱食肉製品や加熱食肉製品等の区別、添加物、賞味期限等の表示を規定している(施行規則)。平成13年にアレルギー表示が制度化され、現在、特定原材料(卵等7品目)の表示が義務付けられるとともに、18品目の表示が奨励されている。
(3)その他のルール
 ビタミン豊富やノンカロリー等の栄養成分・熱量に関する表示のルールである栄養表示基準(健康増進法)、店頭の精肉(ひき肉等を除く)に10桁の個体識別番号表示を義務付けている牛トレサ法等の法律に基づいたルール、景品表示法に基づいた公正競争規約(はちみつ類、食肉等35品目)、和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン(農林水産省、平成19年3月)等のガイドラインがある。
食品表示に関する主な制度

JAS法
(品質表示基準)

生鮮食品 名称、原産地等
加工食品 名称、原材料、内容量、消費(賞味)期限、
保存方法、製造業者等の氏名・住所
遺伝子組換え食品 対象品の「遺伝子組換え(不分別)」表示等
個別品目(54品目) 生鮮品3、加工品51(しょうゆ等)
食品衛生法 名称、非加熱食肉製品や加熱食肉製品等の区別、添加物、消費(賞味)期限、
アレルギー表示(特定原材料(卵等7品目)、準ずる18品目(奨励))等
健康増進法 栄養表示(栄養成分と熱量に関する表示のルール)
景品表示法 虚偽、誇大な広告の禁止
公正競争規約(35品目)
不正競争防止法 偽装表示の禁止
薬事法 医薬品的な効能効果の表示禁止
計量法 内容量の適正な表示
ガイドライン 魚介類の名称ガイドライン、和牛等特色のある食肉の表示
(4)海外の表示
 米国は栄養表示を義務付けており、産地表示は水産物について2002年から義務化され、2008年秋に鶏肉を除く生鮮品全体が対象となった。英国のスーパーでは、生鮮品に原産地とともに店頭陳列期限が表示されている。それぞれの状況に応じて表示が行われている。
3.食品の鑑定技術
 食品は、表示と異なった原材料を使用しても外見から見分けることは一般に困難である。そのため、偽装対策としての鑑別は従来から取り組まれてきた。例えば、コーデックスの果実ジュース規格(CODEX STAN 247-2005)には "3.4 成分、品質、真偽(AUTHENTICITY)の確認" が含まれており、分析方法等も示されている。
理化学分析、そして比較的新しい技術であるDNA分析、元素組成解析、安定同位体の分析について紹介する。
(1)理化学分析による成分分析
 原材料が異なれば成分も異なる。すなわち、食品の成分を分析すれば使用した原材料がわかる。
例えば、食用植物油脂は脂肪酸組成によって原料(大豆、オリーブ等)が判別できる。ソバは、ソバ粉とつなぎとして小麦粉を使う場合が多い。両者は構成アミノ酸のパターンが異なることから、製品のアミノ酸パターンを調べることで、小麦粉を使用しているかどうか、そしておおよその使用割合が算出できる。(グルタミン酸とアスパラギン酸の比を指標とする。)原材料としてそば粉しか記載されていないにもかかわらず小麦粉が使用されているとの分析結果となれば、不適正な表示である。
(2)DNA分析による種の判別
 切り身等で販売される魚や肉は、外見から種を判別することは難しいことからDNA分析を行う。特定の種の固有な遺伝子配列を検出できるよう設計したプライマーを用いてその部分を増幅し、さらに制限酵素で切断して電気泳動を行い、DNA断片のパターンを比較する。
水産物では「クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ」、畜産物では「黒毛和種、ホルスタイン種及びその交雑種」等の判別が可能である。
水産物は種によって生息域が異なることがあり、この場合はDNA分析で産地が確認できる。アジには、日本近海に生息しているマアジと最近ヨーロッパ諸国から多く輸入されているニシマアジがあり、アジ干物(原料原産地の表示が必要)をDNA分析すれば原料原産地の表示が正しいかどうか確認できる。(「○○県産アジ使用」の表示にもかかわらずニシマアジであれば、疑義大となる。)
(3)元素組織解析による産地の判別
 生育した土壌が異なれば農作物の元素組成も僅に違ってくる。近年、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析(又は質量分析)装置を使用して多くの元素を一度に分析できるようになったことから、産地判別に活用されている。長ネギではNa, P, K, Ca, Mg等の20元素を分析、解析する。概ね90%以上の的中率で国産かどうかの判別が可能である。FAMICは長ネギ、たまねぎ、ショウガ、ニンニク、黒大豆(丹波黒)、梅干し、ゴボウ、コンブについて各産地の産品の無機成分を分析してデータ解析を行い、判別マニュアルを作成・公表している。
ICP分析による長ネギの産地判別1)
ICP分析による長ネギの産地判別
(4)安定同位体の分析
 自然界には炭素安定同位体()が微量存在するが、トウモロコシはの比率が僅かに高い。(植物であるトウモロコシは光合成の型が植物(殆どの植物は)であるため)すなわち、を分析すれば、トウモロコシを原料とする異性化糖を使用したかどうか、そしてその量がわかる。この方法は、ハチミツや果実飲料のコーデックス規格で採用されている。
炭素安定同位体の他にも、ストロンチウム同位体とホウ素安定同位体による米の産地(国産、カルフォルニア)2)、炭素安定同位体と酸素安定同位体によるアルコール原料の判別(種類と産地)3)及び牛肉の産地の判別4)が報告されている。
4.おわりに
 食品の種類は多く、それらに対応する表示ルールはどうしても詳細なものとなってしまう。しかしながら、マスコミで報じられている食品表示偽装事件は、うっかりミスではなく意図的に消費者を欺いたものであり、企業の姿勢が問われている。
FAMICでは年間約6千点の表示をチェックし、疑義がある場合は必要に応じて事業者の伝票や帳簿等を確認し、不適切な表示が確認された場合には指導を行っている。これら取り組みを通じて、消費者の食品表示に対する信頼確保に取り組んでいる。
参考文献
1) Ariyama, K., Horita, H., Yasui, A., Application of inorganic element ratios to chemometrics for determination of the geographic origin of welsh onions. J. Agric. Food Chem, 52, 5803-5809 (2004)
2) 織田久男, 川崎晃, 微量元素の同位体比測定による米の産地国判別, ぶんせき, No.12, 678-683 (2002).
3) 佐藤充克, 安定同位体比分析によるアルコールの起源特定について, 醸協, 103, 104-112 (2008).
4) 中下留美子, 鈴木彌生子, 赤松史一, 小原和仁, 伊永隆史, 安定同位体比解析による国産・豪州産・米国産牛肉の産地判別の可能性, 日本食品科学工学会誌, 55, 191-193 (2008).
○JAS法の表示制度(各種基準、Q&A、パンフレット等)
http://www.maff.go.jp/j/jas (農林水産省のホームページの「食品表示とJAS規格」)
○FAMICが公開している種・産地の判別マニュアル
http://www.famic.go.jp/technical_information/
著者略歴
新潟県出身。昭和58年に東北大学農学部農芸化学科を卒業し、農林水産省勤務。これまで、JAS法の改正、HACCP手法支援法(導入企業への支援を目的)の制定、食品企業のPL法(製造物責任法)対応、食品のトレーサビリテイ確立のための事業推進等の業務に携わる。平成19年8月より、独立行政法人農林水産消費安全技術センター表示監視部長。
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.