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安全な食品の安定供給〜「雨にも負けず」の気持ちを忘れずに〜
北海道大学 大学院 水産科学研究院 安全管理生命科学分野 一色賢司
 新年、明けましておめでとうございます。本年も、「雨にも負けず、風にも負けずに」に清く正しく食品を取り合っていただくことを願っています。
 人間は従属栄養生物であり、ご先祖様から延々と、知恵と勇気を持って食料調達に努力を重ねてきました。我が国の食料事情は自給率40%(カロリーベース)に象徴されるように不安を抱えていますが、魚介類や卵、野菜の生食に象徴されるように食品安全事情は良好です。残念ながら、輸入冷凍餃子を原因食品とする有機リン剤中毒等が発生しました。悪意のある事件のようであり、早急な全容の解明が待たれます。また、悪意のある非食品の食品への転用や水増し等により、フードチェーン全体に暗雲がたちこめ、相互不信に陥っている感があります。
 我が国のフードチェーンは、全世界に延びています。多くの国民は、お金で決済される食料調達に慣れ過ぎ、生物である人間とその食料の関係が理解できなくなっているようです。食料が不足したり、低温流通のコールドチェーンが機能しなくなったりした時にも、国民は冷静に対応できるのでしょうか。創設予定の消費者庁が行政組織横断的な消費者保護を志したとしても、国民全員にフードチェーン全体の理解と貢献を求めなければ、複雑化する行政組織に対する嫌悪感が増すことになると懸念されます。
 食料調達に不祥事が続き、無力感を感じておられる方も多いと思われます。次世代のためにも、健全な食品の安定調達に務め、金銭欲に囚われることなく、健全な心技体の維持とリスク分析手法を活用したフードチェーン対策に務めていただくことを願っています。
 科学技術が進んでも、食中毒は無くならないと思われます。食品を悪用して利益を得ようとする悪行も無くならないと思われます。悪行に対しては、「ヤリドク」は許さず必罰し、不当利益を回収する等の対応を行うことが必要です。消費者庁の創設の陰に隠れた警察の生活安全への対応の在り方が、「肝心要」ではないのでしょうか。
 人間は大昔から食べ続け、失敗も経験し、知恵を蓄積してきました。原種と呼ばれる生物を選抜・改良し、不都合な成分を減らし、可食部位や味の良い部位を増やしてきました。そのまま食べれば体調を崩すものは、煮たり、焼いたりして、より安全で美味しいものに変えて食べてきました。料理や加工は美味しくする為にだけではなく、食べられない物も食べられるようにし、より安全にするために行われてきました。間違った目利きや不適切な調理では、健康リスクが高まる場合があることも経験してきました。
 分業化されているフードチェーンの信頼性確保には、相互理解が必要です。安全性確保には、連続した衛生管理が必要です。消費者への説明も必要であり、消費者も積極的にフードチェーンを理解するための努力を払うことが必要です。経営者であろうが従業員であろうが、食品取扱者としての自覚とプロ意識が必要です。食品取扱者の労働環境の整備、ヤリガイやヤル気の維持も必要です。
 悪行に対しては、しつけ・教育と警察・法で対応してきました。雨にも負けず、風にも負けず、嘘をつかず、悪行を行わずに、食料を調達する努力が尊重されるべきです。食べ物として、命をいただく生物に感謝することも忘れてはならないと思います。
 我が国のフードチェーンは地球全体に延びています。我が国の食生活は、国際的ともいえます。国際的に通用する食品安全の基本的な文書は、「Codex食品衛生の一般的原則」であり、日本食品衛生協会から日本語訳も提供されています。厚生労働省からは、「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針」として、その内容が紹介され、通知されています。食品取扱者は、読んでおくべき文書です。迷いが生じた時は、原点に戻るつもりで読み直していただきたいと思います。
 フードチェーンの始めから消費までの各過程で適切な衛生管理を行うことで、食品安全に反映されるさまざまな利点が生じ、消費に妥当な食品を供給することができます。その利点の一つに、各段階において危害要因をコントロールすることで食品衛生を確かなものとすることができることがあります。それぞれの段階に対して食品に適した取り扱い方法は異なっているため、それぞれの管理方法や施設、環境を準備することが必要です。各衛生管理を繋いで一連の流れをつくり、さらに食品の管理方法に対する方法や意識の違いによって生じる誤差や混乱などのリスクを小さくする情報交換をする必要があります。さらに、必要に応じて、一連の流れを見直していくことで衛生管理上の問題点を予防的に見つけることができます。
 食品の原材料も人間も生物です。気候や天変地異等、多くの変動要因に影響されて生きています。食品の危害要因も変化します。その管理方法も変わっていかなければなりません。管理方法を変更する場合にもフードチェーンの流れを意識する必要があります。食品の管理方法や製品の情報を共有することで次の段階の使用者の食品管理が容易になり、衛生管理がより合理的になります。
 しかし、間違ったフードチェーンの情報は食品の取り扱い方法に誤りを生じさせ、混乱をもたらすことになります。製品回収リコールに貢献できないトレーサビリティは、良いトレーサビリティではありません。衛生管理の記録が整備された後に、はじめて食品安全、特にイザというときのリコールに役立つトレーサビリティとなるのではないでしょうか。衛生管理あっての、食品トレーサビリティではないでしょうか。安全な食品の安定供給の基本は、連続した衛生管理だと思います。
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