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2008年いろいろな食品事件・事故を振り返って
 2008年(平成20年)はおそらく日本の食品衛生の歴史にも残る年となるであろう。主なものを列記してみると、
1月 中国冷凍ギョウザによる中毒事件
4月 ペットボトルのお茶から除草剤グリホサート混入事件
9月 中国でメラミンが混入した粉ミルクによる乳児の健康障害や死亡事故
10月 中国製冷凍インゲンからジクロルボス検出
それ以外にも、食品擬装といわれる事件が多く発生し、今も続いている。
6月 うなぎの産地擬装
9月 事故米(カビや残留農薬など規格外)を食用に転売
 健康影響の面からは冷凍ギョウザ事件と粉ミルクのメラミン事件はショックな事件であった(ギョウザ事件は、まだ原因は解明されていないので過去形では論じられないが)。
 1月30日に全国にTV,新聞で中国製冷凍ギョウザによる有機リン系農薬(メタミドホス)による中毒が3件発生したことが報道された。
 実際は昨年から同じ有機リン系のジクロルボスなどの混入によるトラブルは発生していたのだが気づくことなく、異臭・食中毒等で処理されている。12月28日に親子2名、1月5日には一家3名、そして1月22日には親子5名の方が、中国河北省石家荘の天洋食品で製造、JTフーズが輸入し、大手スーパーと生協で販売された冷凍ギョウザで有機リン食中毒を起こした事件である。3家族とも夕食時に調理して食べたところ、20〜30分でめまい、発汗、下痢、嘔吐、手足の痺れ等の症状を訴えられ病院に運ばれたりしている。結果論だが典型的なコリンエステラーゼ活性を阻害する有機リン系中毒の症状である。1月5日の事例では単なる食中毒ではなく有機リン等毒物による中毒が疑われている。残念なことに3つの事件とも一社で取り扱っていた商品であったが、最後の事件が起きるまで、それらの関連に思い至ることはなかった。日常のクレーム処理からすれば、まさか!というまさかが起きた事件であった。
 正直なところこういった事例は日本国内では起きることはまずないと私自身も思っていた。下図はかれこれ10年以上毒性の説明をするのに使っている図であるが、毒性の強いメタミドホスを事例として、健康影響を与える量(中毒量)と通常私達が食品を通して経験する濃度をひとつの図にして眺めたものである。食品を食べる量や年齢もあり一概には言えないが、1987年に香港で発生した中毒事例で説明している。香港は、中国本土から多くの野菜果実を輸入している。
その白菜を食べて食中毒を起こした事件がカルフォルニアの学会で以前発表された。メタミドホスの濃度は100〜200ppm(平均150ppm程度)で中毒を発症していた。その汚染された白菜を洗剤で洗ったり、油でいためたりすることにより残留濃度はかなり低減するとの発表もあった。日本国内ではご存知のように、メタミドホスは登録がない使用できない農薬であるが、国内ではポピュラーな農薬アセフェートの分解物である。図の中の構造を見ていただければわかるが、、アセフェートは、脱アセチル化すればメタミドホスとなり、実際の作物の分析では濃度は異なるが二人(?)はペアで出てくることが多い。中国から輸入される食品で微量に検出される事例はある。国内での検出事例は多くはないが、検出された場合の濃度は0.01ppm〜0.3ppm位であろうか。このことを考えると、通常私達がめぐりあう濃度は、中毒するかもしれない濃度と比べれば、300倍、1000倍以上の大きな開きがあることが理解できる。中国、香港で起こるような特殊な事例はまず日本では起こることはなく、日本では普通の農業生産で農薬を基準を守ってやっていればなんら問題はありませんよと、紹介していた図である。今回のギョウザ事件はそれをはるかに超える濃度(ppmではなく%表示が合う)での事件が起こりいたくショックであった。私+たちは日常的にこつこつと品質管理、検査による検証を進めながら安全品質レベルを向上させているが、それだけでは防ぎ得ない人と人との関係をもっと深めた管理の重要性を痛感させられた。
 ギョウザ事件や10月に発生した冷凍インゲンのジクロルボスの混入事件等も偶発的事件で、原因が分かればそれなりの対応が可能で、努力すれば消費者の理解も深まっていくと思われるが、9月以来報道されている粉ミルクによるメラミンの問題は中国国内での構造的な部分もあり、ギョウザ事件等と同じには論じられない側面を持つ事件であろう。
 昨年米国を中心に中国から輸入されたペットフードが原因で犬や猫が死亡する事件が相次ぎ、調査した結果小麦のたんぱく質量をごまかすために加えられたプラスチック原料のメラミンがペットフードの中に入っており、それを毎日食べていた動物が腎結石による内臓障害を発症して死亡するという事件であった。腎結石の原因物質はメラミンと不純物のシアヌル酸により出来た不溶性塩で、尿量の少ない猫はリスクが高いとの報告もあった。小麦粉の窒素含量をごまかしたとなると、次は何が起こってくるかと思っていたが、今度は中国国内での粉ミルク汚染であった。
 北京オリンピックのせいもあったのか発表が遅れ、死亡した乳児も出て患者数も多く、中国国内はパニック状態になってしまった。その汚染は乳を使用した食品へと広がり世界中へ輸出していた中国の食品の輸出に大きな打撃を与えている。現在、中国では中国検験検疫科学研究院(検験総局CIQなどが実施する試験法の設定等科学的中核)などがチームを組んで国家標準の検査法(GB)を検討し、原料乳は2ppm、乳製品は0.05ppmの基準で検査が行われている。メラミンの検査については、液体クロマトグラフィー法、GC/MS法、LC/MS/MS法など濃度に合わせた試験法があり、分析機器メーカーは売る分析機器が手当てできないような特需もあったという。
 中国国内のスーパーでは有名なミルクキャンディ(以前メラミンが検出された)には「不含メラミン(中国語で)」のラベルが張ってあったり、日本製の粉ミルク等は3倍くらい(一缶3000円位)で売られている。人一倍子供を大切にする中国の人にとっては大変な状況だろう。更に、窒素含有試薬類の汚染、飼料汚染にも広がっており裾野がまた見えないし、中国という国が世界の食品を製造する資格をはなはだしく傷つけた事件でもあった。
 品質管理は進むが、事件は頻発する事態を見ていると、品質管理は意味があるのかとふと不安になる面もあるが、思いとどまって元の木阿弥にならないよう、ステップバイステップで進んでいくしかないのかと感じている。食品関係ではあまり良いことのない2008年であった。
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