2002年にヨーロッパではノロウイルス遺伝子型GU/4の従来の株が変異し(遺伝子の塩基配列が異なる)、GU/4.2002型が(ポリメラーゼ領域)出現した。従来のノロウイルス感染症は冬期に主として集団発生、流行が発生していたが、GU/4.2002年型はヨーロッパでは流行が認められた。しかし同時期に日本でもGU/4.2002年年型が認められたが、流行を起こさなかった。
ところが、2004年にGU/4.2002年型が変異し、GU/4.2004年型が出現し、ヨーロッパの各国ではノロウイルスの集団発生が50%〜100%増加した。
わが国では2004年の年末に広島県福山市内の特養老人ホームで(資料1)、ノロウイルスによる急性胃腸炎に伴う死亡例が発生したことから、全国的に大きな問題となった。厚生労働省が全国の高齢者施設における感染性胃腸炎集団発生事例の報告を求めたところ(2004年11月以降から2005年1月12日の間)、全国の236施設において感染者数は7,821名で、そのうちノロウイルス感染者(疑いを含む)は5,371名で、死亡者数12名(疑いを含む)であった。この年は高齢者福祉施設で大流行が見られた。この原因ノロウイルスはヨーロッパと同一のGU/4.2004年型であった。
当時は連日、ノロウイルス感染症がマスコミで取り上げられ、ノロウイルスは新しいウイルスであり、殺人ウイルスであるが如き誤った報道がなされた。ノロウイルスは40年前に発見されており、ノロウイルスによる直接的な死亡は極めてまれで、死亡は強い脱水症状、嘔吐時の窒息あるいは誤嚥性肺炎を起こすことによる。
日本では2005年の冬から2006年の初にはGU/4.2004型による流行が引き続き見られた。
2006年にはヨーロッパでGU/4.2004型がさらに変異し、GU/4.2006年a.b型の2つが新たに出現した(図1,2,表1)。この変異株に起因する感染性胃腸炎の大流行がヨーロッパのほぼ全域で見られ(表2)、2007年も引き続いて流行した。アメリカでも、2006年10〜12月には24の州で1,316事例の急性胃腸炎の集団発生が見られた。うち382事例はノロウイルスであった。22州において、2005年の同時期と比べて集団発生数が18〜800%増加し、増加の著しい州はミシガン州(800%の増加)、次いでニューヨーク州(490%の増加)、およびカリフォルニア州(445%の増加)の順であった。
日本でも、欧米と同様にGU/4.2006年a.b型によって、2006年11月からノロウイルスの集団発生が老人ホーム、福祉・養護施設、病院、高校・大学において集団発生が多発した(図3)。2007年〜008年はGU/4.2006年b型によって引き続き流行を起こした。
近年のノロウイルス集団発生はGU/4型によってその殆どが起きている。2004年・5年はGU/4.2004型、2006年以降はGU/4.2006年b型によって起きている。なお、ヨーロッパでは2006年a型が多く見られている。
日本でもノロウイルスによる人―人感染の集団発生の大流行と同時に食中毒事件も多発し、2006年には499件(図4)、患者数は27,696名で、患者数は食中毒患者数の全体の71%を占めた(図5)。2007年は、348件で患者数は18,750名で、全体の56%を占め、起因ノロウイルスの遺伝子型はGU/4.2006年b型が多く、感染症による集団発生を起こした遺伝子型もGU/4.2006年b型であった。今や食中毒患者の大部分を占めているのはノロウイルスであり、その防止が急務である。
2004年以降、日本のみならず世界的にノロウイルスが大流行し、集団発生が多発している。その流行株は遺伝子型GU/4である。GU/4は2002年以降ポリメラーゼ領域で、2年毎に変異が起こし(2002年型、2004年、2006年a,b変異株)、起きた年にヨーロッパと同一のGU/4の変異株により日本でも大流行を起こしている。この領域(ポリメラーゼ領域)は増殖に関与する遺伝子で、増殖が旺盛になっているとも推測される。このGU/4型は病原性が強く、冬期のみならず他の時期にも集団発生を起こしている。
最近、ウシ、ブタの糞便あるいは市販食肉からGU/4株を検出し、ブタ/ヒトまたはウシ/ヒトのノロウイルス間で遺伝子組替えが起こり、親和性や病原性が変化したノロウイルス株が出現する可能性を報告しており、さらに病原性の強い株の出現も予測される。
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