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消費期限、賞味期限の設定について
分析業務 統括 小林 政人
はじめに
 平成19年は全国各地で食品をめぐる多くの事件が発生した1年でした。
特に食品の消費期限、賞味期限の改ざん問題がマスコミにも連日取り上げられ、食の安全、安心を揺るがすものとして社会問題化しました。
 このような中で弊財団に対し、全国の食品メーカーより食品の期限設定について、数多くの問い合わせが寄せられ、これを受けて科学的根拠、客観的データ収集のための「期限表示設定サポートサービス」を提供してまいりました。
本稿では食品の期限設定に関するポイントを説明いたします。
食品の期限表示
 食品の期限表示に関しては、平成7年4月から製造年月日表示に代えて、消費期限又は賞味期限(品質保持期限)の表示が行われてきた。
 その後、平成15年7月には「食品衛生法」及び「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づく表示基準を改正することにより、「賞味期限」と「品質保持期限」の2つの用語が「賞味期限」に統一されるとともに、「賞味期限」及び「消費期限」のいずれについても、それらの定義の統一が行われた。
表-1 消費期限、賞味期限について
区分 期限の定義 対象食品及び表示方法 その具体例
消費期限 定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう 対象食品:製造日を含めて概ね5日以内で品質が急速に劣化する食品

表示方法:「年月日」
弁当、調理パン、惣菜、生菓子類、食肉、生麺類など
賞味期限 定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする 対象商品:品質の劣化が比較的緩やかな食品

表示方法:「年月日」

(製造後3ヶ月以内)

表示方法:「年月日」又は「年月日」
(製造後3ヶ月以上)
スナック菓子、即席めん類、缶詰、牛乳、乳製品など
食品期限表示の設定のためのガイドラインについて
 平成17年2月に厚生労働省、農林水産省より「食品期限表示の設定のためのガイドライン」が公表された。
 このガイドラインは、食品の期限を設定する際に、食品全般に共通する科学的根拠のある期限設定を実施するために作成されたものである。
 その中に以下の4項目の基本的考え方が記述されている。
→ 1.食品の特性に配慮した客観的な項目(指標)の設定
(1). 個々の食品の特性を十分配慮した上で、食品の安全性や品質等を的確に評価するための客観的な項目(指標)に基づき、期限を設定する必要がある。
(2). 客観的な項目(指標)とは、「理化学試験」、「微生物試験」等において数値化することが可能な項目(指標)のことである。
一般に主観的な項目(指標)と考えられる「官能検査」における「色」、「風味」等であっても、適切にコントロールされた条件下で、適切な被験者により的確な手法によって実施された場合は、主観の積み重ねである「経験(値)」とは異なり、客観的な項目とすることが可能と判断される。
(3). これらの項目(指標)に基づいて設定する場合であっても、結果の信頼性と妥当性が確保される条件に基づいて実施されなければ、客観性は担保されない。
(4).

各々の試験及び項目(指標)の特性を知り、それらを総合的に判断し、期限設定を行なわければならない。

(5). 食品の特性として、例えば1年を越えるなど長期間にわたり品質が保持される食品については、品質が保持されなくなるまで試験(検査)を強いるのは現実的ではないことから、設定する期限内での品質が保持されていることを確認することにより、その範囲内であれば合理的な根拠とすることが可能である。
→ 2.食品の特性に応じた「安全係数」の設定
(1). 食品の特性に応じ、設定された期限に対して1未満の係数(安全係数)をかけて、客観的な項目(指標)において得られた期限よりも短い期間を設定することが基本である。
(2). 品質が急速に劣化しやすい「消費期限」が表記される食品については、特性の一つとして品質が急速に劣化しやすいことを考慮し期限が設定されるべきである。
(3). 個々の包装単位まで検査を実施すること等については、現実的に困難な状況が想定されることから、そういった観点からも「安全係数」を考慮した期限を設定することが現実的であると考えられる。
→ 3.特性が類似している食品に関する期限の設定
 本来、個々の食品ごとに試験・検査を行い、科学的・合理的に期限を設定すべきであるが、商品アイテムが膨大であること、商品サイクルが早いといった食品を取り巻く現状を考慮すると、個々の食品ごとに試験・検査をすることは現実的でないと考えられる。
 食品の特性等を十分に考慮した上で、その特性が類似している食品の試験・検査結果等を参考にすることにより、期限を設定することも可能であると考えられる。
→ 4.情報の提供
 期限表示を行う製造業者等は、期限設定の設定根拠に関する資料等を整備・保管し、消費者等から求められた時には情報提供するように努めるべきである。
期限設定のための保存私権の実施について
 期限表示設定サポートサービスでは、次の4STEPを経て科学的根拠を収集し、食品の期限を設定します。
STEP1:食品の特性を把握する
食品の分類
既定の或いはこれから設定しようとする保存条件(特に保管温度)
既定の或いはこれから設定しようとする消費期限または賞味期限
使用原材料(特に保存料、日持ち向上剤、香料、着色料の使用の有無など)、その割合の把握
製造工程の管理条件の把握(特に、加熱、殺菌、分解、乳化、攪拌など品質へ影響するもの)
商品の形態(内容物の大きさ、包材の種類、エージレス等の有無)
過去の分析値(栄養成分分析、微生物検査など)
法的基準、業界基準の有無
STEP2:検査項目の絞込み
→ 1.微生物項目
 特に消費期限の設定の場合、非常に重要な検査項目になります。
 食品の腐敗や変敗は微生物(細菌、真菌(カビ、酵母))による場合が多く、一般細菌数や真菌数、芽胞形成菌などの定量的試験の他、食品中に食中毒菌(腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、リステリア菌、カンピロバクターなど)が含まれていないか(定性試験)を検査します。(表-2参照)。
表-2 微生物検査項目とその検査目的
検査項目 目的
一般細菌数 食品の衛生学的品質を評価する衛生指標
大腸菌群 環境衛生管理上の汚染指標菌、食品の品質を評価する衛生指標菌
黄色ブドウ球菌 耐熱性毒素(エンテロトキシン)を産生する食中毒菌、人の手指・鼻・髪の毛などにも存在(人の常在菌)
大腸菌(E.coli) 糞便汚染の指標菌、人や動物の腸管内に存在
カビ・酵母(真菌) 製造・保管環境の確認
セレウス菌 自然環境に広く存在、熱や乾燥に対して非常に強い(芽胞形成菌)
腸炎ビブリオ 魚介類から高率に検出される食中毒菌、増殖速度が速いので注意が必要
サルモネラ菌 鶏卵、食肉、乳製品等から高率に検出される食中毒菌
カンピロバクター 家きんや家畜の腸内に生息、食中毒発生原因の件数ではトップ
好気性芽胞形成菌 耐熱性菌の確認(酸素がある状態で生育しうる耐熱菌)
嫌気性芽胞形成菌 耐熱性菌の確認(酸素がない状態で生育しうる耐熱菌)
→ 2.理化学項目
 特に油脂を多く含む食品においては、油脂の酸化状況を検査する必要があります。
 水分活性や水分、糖度などは微生物の繁殖と密接な関係があります。(表-3参照)。
表-3 理化学検査項目とその検査目的
検査項目 目的
水分活性 食品中の微生物が増殖に際して利用できる水分、即ち、食品中の自由水の割合を示す指標であり、微生物の増殖のしやすさの目安となる。
水分 吸湿の度合いを示す指標である。
pH 品質劣化の指標、腐敗が進むと生成されるアンモニアによりpHはアルカリ側に移行、微生物の生育条件に影響を与える。又、腐敗により酸が生じる場合、pHは酸性側に移行する。
酸価 油脂の酸敗により生じる脂肪酸を測定する方法であり、油脂の劣化を示す指標である。
過酸化物価 油脂の酸化の初期に生成する過酸化物を測定する方法であり、油脂の劣化を示す指標である。
揮発性塩基窒素(VBN) 魚介類、畜肉などのタンパク質性食品では、食品の変質による鮮度の低下により、アンモニア、アミン類などの揮発性塩基窒素を生成するため、鮮度判定の指標とされる。
酸度 品質劣化の指標であり、生成する酸を測定する方法である。緩衝作用を有する食品の場合、必ずしもpHの低下と一致しない。
沈殿、混濁物 清涼飲料水、又は粉末清涼飲料の成分規格において、沈殿、混濁物の基準(基準:混濁及び沈殿物を認めない。)が設定されており、賞味期限設定の目安となる。
ビタミン類 栄養成分表示を行う場合、賞味期限内は、表示した成分が、その表示含量含まれている必要があります。栄養成分中、安定性の悪いビタミンは、含量を確認しておく必要がある。
色度(色差) 経時的に変色、退色する食品等において、色の変化を示す指標の一つである。
ゲル強度 水産練り製品、食肉加工品等において、食感に影響する評価項目の一つである。
粘度 経時的に粘性が変化する食品において、粘性の変化を示す指標の一つである。粘度は、流動性、食感等に影響し、嚥下障害食等においては、重要な指標となる。
臭気(香気) 官能検査において得られた結果の差の原因となる物質の推定、或いは、官能検査の結果に対し、その結果を裏付けるデータを付加することができる。
→ 3.官能検査項目
 期限の設定においては、商品価値の有無を官能検査により判定することも必要です。
 一般に色沢、味、香り、食感など五感により標準品と比較しながら客観的に評価します。
 評価にあたっては、訓練されたパネラーが複数で行います。業界のガイドラインがある場合は、その方法に準拠します。
 商品価値の有無に関わる判断については、メーカーの製品設計に拠るため、製品設計担当者と共同で評価する場合があります。
STEP3:保存試験の実施
 STEP1.2で得られた情報をもとに保存試験を実施
・温度:

既定の或いはこれから設定しようとする温度に設定(10℃以下の場合、10℃)

・期間:

既定の或いはこれから設定しようとする期間の1.2倍から2倍程度
(安全係数1未満を設定)

・項目:

微生物試験、理化学試験、官能検査で品質特性から的確と考えられる検査項目

・試験回数:

予想される品質の劣化速度を考慮する
(一般に消費期限についてはほぼ毎日実施。賞味期限については適時実施)

 保管温度等を上げるなどの加速試験(苛酷試験)については、通常の保管条件での品質劣化をあらかじめ予想するために行い、加速試験(苛酷試験)のみで食品の期限を設定することは、一般的には行なわれません。
STEP4:結果報告及び評価
 検査結果をご報告するとともに、評価レポートを提出します。
保存試験を実施し得られた結果をもとに食品の期限設定を行うのは
食品等事業者の責任となります。
資料
牛乳等の期限表示設定のためのガイドライン 平成19年8月17日改定
社団法人 日本乳業協会 全国飲用牛乳公正取引協議会
乳製品の期限表示設定のためのガイドライン 平成19年8月17日改定
社団法人 日本乳業協会 チーズ公正取引協議会
(注)社団法人 日本乳業協会様のご好意により、掲載をご了解いただきました。
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