財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >EgoChatを使った情報発信
EgoChatを使った情報発信
食品総合研究所 食品工学研究領域 上席研究員 曲山幸生
1	食品総合研究所の研究情報発信
1.1従来の研究情報発信
 食品総合研究所のような公的な研究機関の職務は、必要とされたときに科学的に正しい情報を提供することである(図1)。かつては、行政に対して調査報告書を提出し、学会に対して研究論文を発表していれば、この職務を果たしたと考えていた時期もあった。
図1 食品総合研究所の情報発信
1.2 最近の社会の要請
 しかし、現在は、一般消費者を含めた非専門家へ向けて信頼できる正しい情報をわかりやすく発信することも重要な職務であると認識しており、これに関係した活動をこの数年来充実させてきた。2006年から取組みを始めたEgoChatシステム(ウェブ上の画像と音声を用いたプレゼンテーションシステム)の利用はそのような活動の一環である。
2 EgoChatとは
 京都大学の西田教授は、大量の情報が行き交う現在のインターネット社会においても会話型コミュニケーション支援技術が重要であることを指摘し、これに資するツール群の開発をおこなっている。EgoChatはその中核となるもので、西田グループの一員である久保田研究員が中心になって開発したプレゼンテーションシステムである。EgoChatの特長は次のとおりである。
2.1 ウェブにおける会話型コミュニケーション
 EgoChatシステムでは、ウェブ上で本人の代わりに分身エージェントが、訪問者に対応するという体裁をとっている(図2)。分身エージェントは、口を開閉する、お辞儀をするなどの簡単な動作を交え、表示された画像を使って文章を読上げて説明する。学会の口頭発表のようにスライドを使って発表するイメージである。このプレゼンテーション形式によって情報を受け取る人に多様な働きかけができ、飽きさせずに情報提供ができる可能性を高めている。
図2 EgoChat番組の例
2.2 容易なコンテンツ作成作業
 EgoChatシステムでは、画像と説明文からなる一連の知識カードを、音声合成技術や動画生成技術を用いて音声と動画からなるコンテンツを自動的に作成し、発信する。コンテンツ作成者は各知識カードを作成し、それを並べて、ストーリーを構成すればよい。あとはEgoChatシステムが実行してくれる。このような構造を採用したため、ストーリーを大きく変更する場合でも、知識カードの並べ方を変えたり、少数の新しい知識カードを加えたりするだけで対応できる。また、各知識カードはさまざまなストーリーでそのまま利用できるし、多少修正して使うこともできる。つまり、過去の努力は蓄積され、将来にわたって簡単に利用できる。
2.3 自立動作する分身エージェント
 EgoChatの分身エージェントは単なるアバター(本人を表す記号)ではない。本人の指示なしに自立的に動作することから現実の秘書、あるいは窓口係に近い。分身エージェントは、すでに答えが用意されている質問に対してはそのまま回答する能力があり、本人を煩わすことはない。しかし、分身エージェントが答えられない質問の場合には、本人に取り次ぎ、本人と質問者の間の高レベルな会話を開始できるようにしてある。窓口係として最低限の仕事をこなす能力を持っているのである。この窓口係は、いつでもどこからでも呼び出すことができ、同時に何人でも対応できるという点だけから見れば、現実の人間以上の存在とも言える。
3 Ego Chatを利用した情報発信の例
 上記の特長を持つEgoChatは、様々な応用が考えられる。ここでは、食品総合研究所がこれまでに採用したEgoChatの利用方法を紹介する
3.1 イベントの案内
 食品産業関係者に向けて開催する研究成果展示会と、地元の一般市民向けに開催する一般公開は、私たちの研究課題やその成果をわかりやすく伝えるための2大イベントである。これらのイベントでは、それぞれの研究について研究者自らが興味を持った来場者に対して個別に対話して説明するので、たいへん内容の濃いコミュニケーションを実現できる。
 反面、来場者がすべての出展内容を大雑把に把握することはたいへん難しい。この問題を解決するためによく用いられるのが、ショートプレゼンテーションの時間を設け、簡単に各出展内容を紹介する方法である。しかし、発表者と来場者がともに、その時間にその場に拘束されるというデメリットがある。
 食品総合研究所では、同じことをEgoChatでおこなうことによってこのデメリットを回避した(図3)。また、会場の休憩コーナーで常時EgoChatによるショートプレゼンテーションを発信していることで、休憩後に予定外の展示を訪問するという効果もあった。
図3 EgoChatシステムによる展示紹介の例
3.2 食品害虫サイト
 テレビでクイズ番組が多く制作されていることからわかるように、クイズは知的好奇心をくすぐる娯楽としてたいへん人気があるコンテンツである。文字だけによる出題に答えるのも楽しいが、テレビ番組のように出題者と解答者のやりとりにもおもしろさがある。
 食品総合研究所のウェブサイトでは、EgoChatの分身エージェントと対話をしているような感覚のクイズコンテンツを公開している(図4)。現在、人気ページのひとつとなっている。
図4 EgoChatシステムによる食品クイズの例
3.3 食品害虫サイト
 最近(2007年11月)、それまで公開していた「貯穀害虫・天敵図鑑」を統合し発展させた形で、食品害虫サイトをオープンした(図5)。食品に混入する昆虫類の問題はときどき社会をにぎわすが、微生物や化学薬品と比較すると食中毒を引き起こすリスクが小さく、国を挙げて根本的な対策をとるという段階になかなか進んでいかない。しかし、昆虫が混入した食品を食べてしまった消費者のショックは大きく、その製品を製造したメーカーなどは対策に苦慮している。
  この混迷は、食品害虫に対して日本社会としての標準的な考え方が形成されていないことが原因である。したがって、安全性に関する科学的な事実、食品の品質の問題、心理的問題、対策の考案と費用、など、さまざまな情報を関係者が共有したうえで、関係者が社会全体のことを考えて議論を進めなければならない。
 食品害虫サイトは情報共有と議論の場になることを目指している。ウェブ上では建設的に穏やかに議論を進めることはたいへん難しいことがわかっている。そのため、現在は食品害虫サイトに議論する機能は装備されていない。EgoChatシステムの双方向性機能を使って、微妙な問題を議論するシステムができないか検討中である。
(この課題について一緒に取り組んでもよいとお考えの方がいらっしゃいましたら、筆者までご連絡ください。)
図5 食品害虫サイトのコラムの例
参考文献
1) 西田豊明:社会技術を支える先進的コミュニケーション基盤としての会話型知識プロセス支援技術、社会技術研究論文集、1, 48-58 (2003)
2) 久保田秀和、黒崎禎夫、西田豊明:知識カードを用いた分身エージェント、電子譲歩通信学会論文誌、86-D-I(8), 600-607 (2003)
3) 曲山幸生、久保田秀和、黄宏軒、金井二三子、西田豊明:食総研における新しい研究成果発信方法の活用、情報管理、51(2), 116-128 (2008)
著者略歴
曲山幸生(まがりやまゆきお)
【所属】 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
食品総合研究所 食品工学研究領域 上席研究員
E-mail: maga@affrc.go.jp
TEL: 029-838-8054
FAX: 029-838-7181
〒305-8642 茨城県つくば市観音台2-1-12
【職歴等】

昭和56年4月

株式会社安川電機製作所に入社
工作機械制御装置の開発、回転機制御の研究
バイオ産業動向調査
昭和63年1月 新技術事業団宝谷超分子柔構造プロジェクトに出向
べん毛モータの研究
平成3年10月 株式会社安川電機に戻る
べん毛モータ、細菌運動の研究
平成8年10月 農林水産省食品総合研究所に入所
細菌運動の研究、マイクロテクノロジーの応用研究
研究情報の広報技術の研究
現在に至る (途中、組織改変や組織名称の変更あり)
他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.