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食品の抗酸化力評価の提案 〜 ORAC分析を中心に 〜
1.はじめに
 人間をはじめ殆どの生物にとって酸素は不可欠なものである。体内に取り込まれた酸素の数%は、活性酸素となり細菌などから身体を防御するために使用され、余剰の活性酸素はスーパーオキシドジスムターゼなど抗酸化酵素(生体内の消去システム)や食品中の抗酸化物質により消去されて健康が維持されている。しかしながら、紫外線、喫煙、排気ガス、大気汚染、ストレス等の増加要因により抗酸化酵素や抗酸化物質で消去できない過剰の活性酸素が産生されると、生体組織へ酸化的障害を与え、生活習慣病をはじめ、癌、老人性痴呆などを引き起こし、疾病の90%以上は活性酸素と何らかの因果関係があるといわれている。
 活性酸素を消去し健康を維持するために、抗酸化物質を含む食品を摂取することが重要となる。抗酸化物質は、たんぱく質、脂質、糖質(三大栄養素)、ビタミン、ミネラル(五大栄養素)、食物繊維(六大栄養素)に加えて、第七の栄養素として注目されている。
 食品の持つ抗酸化力を評価する種々の方法が確立されているが、米国を中心に認知度が高く、かつ抗酸化力の評価方法として使用されているORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)、及び食品の抗酸化力に対する統一した指標の確立を目的として設立されたAntioxidant Unit研究会について紹介する。
2.ORACとは
 ORACは、1992年、米国立老化研究所(National Institute on Aging)のCaoらによって開発され、米国農務省(USDA)のPriorらによって改良が行われてきた。
ORACは食品やサプリメントの抗酸化力を科学的に分析する基準として、米国を中心に世界的に用いられる様になってきた。米国では既にORAC値を表記した食品が多く上市されており、消費者にその食品がどの程度の抗酸化力を有するかを具体的な数値で示している。ORACはUSDAのweb siteでも言及され米国での関心の高さが確認できる。(http://www.ars.usda.gov/is/AR/archive/feb99/aging0299.htm
 又、2007年12月には、USDAのweb siteにおいてORACのデータベースが公開され、277の食品に関して親水性、親油性、及び総ORACが示された。
http://www.ars.usda.gov/SP2UserFiles/Place/12354500/Data/ORAC/ORAC07.pdf
 更に、USDAのPriorらにより、ORACは抗酸化物質の分析法としてAOAC(Association of Official Agricultural Chemists)に申請されている。米国においてORACがAOAC法として認可されれば、抗酸化能の評価方法として世界的に使用される可能性が高い。
3.ORACの分析方法
 ORACは、蛍光物質であるFluoresceinを蛍光プローブとして使用し、一定の活性酸素の存在下、これにより分解されるFluoresceinの蛍光強度を経時的に測定し、その変化を指標として抗酸化力を測定する方法である。この反応系に抗酸化物質が共存するとFluoresceinの蛍光強度の減少速度が遅延するため、標準物質であるTrolox(6-Hydroxy-2,5,7,8-tetrametylchroman-2-carboxylic acid)存在下のFluoresceinの減少速度の遅延度合いと比較して、標準物質に換算した試料の抗酸化力を算出する。
Trolox
ORACの分析方法の概要を図−1に示す。試料溶液、又は標準溶液(Trolox)に蛍光プローブ(Fluorescein)を添加し、ラジカル開始剤としてAAPH(2,2’-Azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride)を用いて活性酸素を発生させると、活性酸素によりFluoresceinが酸化される。Fluoresceinの酸化物は蛍光を有しないため、図−2の様に蛍光強度が経時的に減少する。試料が抗酸化力を有する場合、抗酸化物質により活性酸素が消去されFluoresceinの酸化が抑制されるため、抗酸化物質が存在しない場合(ブランク)に対してFluoresceinの蛍光強度が持続し、減少速度が遅延する。試料、又はTroloxとブランクの蛍光強度を縦軸、測定時間を横軸にプロットし(図−2)、試料溶液、又はTroloxの蛍光強度の曲線下面積(Area Under the Curve;AUCsample、又はAUCTrolox)とブランクの曲線下面積(AUCblank)の差、即ち斜線部分の面積を算出し、それぞれをnetAUCsample、netAUCTroloxという。標準物質のnetAUCTroloxから試料のnetAUCsampleに相当するTrolox濃度を求め、試料1g当りのTroloxのマイクロモル数としてORAC値を算出する。単位としてμmole TE/g(TE:Trolox Equivalent)が使用される。
ORACは抗酸化力を標準物質(Trolox)の量に換算して表現するため特定の抗酸化物質量を示す値ではない。
図−1 ORACの分析方法

図−2 netAUCの算出方法

 
4.ORACの特徴
 ORACは、体内で発生するペルオキシラジカルを使用することから生体関連性が高いといわれ、親水性及び親油性の抗酸化物質の分別定量が可能である。(弊財団では、両者の分析の受託が可能です。)
 弊財団で受託可能な商品群
 親水性ORAC
 親油性ORAC
 総ORAC ・・・ 親水性+親油性

又、蛍光強度と測定時間から成る曲線下面積より算出するため阻害度合い(図−2の縦軸)と阻害時間(図−2の横軸)を同時に評価する方法であるといえる。
 ORACの測定原理は水素原子移動メカニズムであることが確認されており、(ROO・ + A-H → ROOH + A・)、一重項酸素の消去活性を有するカロテノイド系の抗酸化物質などは測定できない。
5.抗酸化指標の分析の提案

 こんな時に、ORAC分析を!

→ i) 商品の機能性をアピールしませんか?
→   ii) 抗酸化力を抗酸化物質の“含量”ではなく、“抗酸化能力”として数値化しませんか?
抗酸化物質○○mg/100g ⇒ ORAC ○○μ mole TE/g
→ iii) 栄養成分分析(表示のための)に加え、機能性評価を行い、商品の付加価値を高めませんか?
→ iv) 商品開発時に、機能性評価を行いませんか?

抗酸化力のある食品、抗酸化力を強化した食品の機能性評価、付加価値向上にORAC分析をお奨めします。

 食品の抗酸化力に対する統一した指標「Antioxidant Unit」の確立とその表示の検討を行い、食品における抗酸化物質の普及を通じて、国民の健康に寄与することを目的として、2007年4月、Antioxidant Unit研究会(AOU研究会)が設立された。理事長には名古屋大学教授 大澤俊彦氏、副理事長には京都府立医科大学教授 吉川敏一氏、常任理事には(独)国立健康・栄養研究所理事長 渡邊昌氏、(独)農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所食品機能研究領域長兼食品機能性研究センター長 津志田藤次郎氏が就任し、食品製造企業など約90社(2008年5月現在)が賛助会員として参画している(研究会への入会をご希望される方は、弊財団 東京事務所までお問合せ下さい。)。
 研究会の活動内容は下記の通りである。
 ・食品の抗酸化力の統一指標「Antioxidant Unit」を確立する。
 ・「Antioxidant Unit」による各種食品の日本版データベースを作成する。
 ・「Antioxidant Unit」の食品への表示に関する検討を行う。
 ・「Antioxidant Unit」の生体関連性を検証する。
 ・「Antioxidant Unit」の概念を世界に向けて発信し、その啓蒙活動を進める。

種々の抗酸化物質の統一した指標が望まれていることから、研究会では日本発の新しい抗酸化指標の確立を目指している。米国の食品業界では抗酸化力の評価方法としてORACが主流となっているが、ORACではカロテノイド系の抗酸化物質が測定できない。そこで、研究会では抗酸化力の統一指標Antioxidant Unit(AOU)を検討する際、抗酸化物質をフリーラジカルに対して活性を有するポリフェノール系抗酸化物質と、一重項酸素に対して活性を有するカロテノイド系抗酸化物質の2種類に大別し、前者の抗酸化力をAOU−P、後者の抗酸化力をAOU−Cと定義している。AOU−PではORACを分析法として採用する方向、AOU−Cでは分析法を検討中である。又、試験室間共同試験等によるORAC法の妥当性評価を計画している。なお研究会の事務局は、弊財団の東京事務所内に設置されている。
 抗酸化力の統一した指標やデータベースの確立、更に抗酸化物質をどのような食品からどれだけ摂ればいいのかという抗酸化食品に対する市場ニーズへの対応においてORACの役割は大きく、又、AOU研究会の活動が期待される。

AOU研究会のweb site : http://www.antioxidant-unit.com

参考文献
1) Huang, D.; Ou, B.; Hampsch-Woodill, M.; Flanagan, J. A.; Deemer, E. K. Development and Validation of Oxygen Radical Absorbance Capacity Assay for Lipophilic Antioxidants Using Randomly Methylated β-Cyclodextrin as the Solubility Enhancer. J. Agric. Food Chem. 2002,50,1815-1821.
2) Huang, D.; Ou, B.; Hampsch-Woodill, M.; Flanagan, J. A.; Prior, R. L. High-Throughput Assay of Oxygen Radical Absorbance Capacity(ORAC) Using a Multichannel Liquid Handling System Coupled with a Microplate Fluorescence Reader in 96-Well Format. J.Agric.Food Chem.2002,50,4437-4444.
3) Ou ,B.; Hampsch-Woodill,M.; Prior, R. L. Development and Validation of an Improved Oxygen Radical Absorbance Capacity Assay Using Fluorescein as the Fluorescent Probe. J.Agric.Food Chem.2001,49,4619-4626.
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