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異物クレームに対する検査と再発防止に向けたコンサルティング
1 はじめに
 昨年の「SUNATEC e-Magazine vol.005」で「異物検査概論及び検査の流れ」という題目で、異物検査にはどのような検査手法があり、具体的に何が判別できるかについて説明いたしました。本号では、より応用的な検査内容とその報告事例及び再発防止に向けたコンサルティングについてご紹介させていただきます。
2 応用的な検査内容と報告事例
1)顕微鏡編
 SUNATECでは、実体顕微鏡(倍率:×0.67〜×4.5)や蛍光光学顕微鏡(倍率:×40〜×1,000)を用いた顕微鏡観察を行うことにより、動植物組織、細菌、カビ、酵母などの微生物、繊維、毛などの確認、同定を実施しています(写真-1及び2参照)。
 実体及び蛍光光学顕微鏡を用いた検査報告事例をご紹介いたします。

写真-1 実体顕微鏡 写真-2 蛍光光学顕微鏡
(1)クレーム内容…オレンジジュースの中に繊維様の浮遊物が認められる。
   この浮遊物が何なのか知りたい。
   ↓
検査内容及び所見…浮遊物を採取し、実体及び蛍光光学顕微鏡下で観察を行った結果、植物組織に特徴的な構造(細胞壁、孔辺細胞)と少量の扁平上皮細胞が確認されました(写真-3参照)。以上の結果から、浮遊物は植物片に扁平上皮細胞が付着したものであると判断されました。
 これらの状況証拠から、浮遊物はそしゃく物、すなわち口から出てきたものであることが推測されました。つまり、飲食時にオレンジジュースの容器に口をつけて飲んだ際に、口中の植物片が意図せずしてオレンジジュースに混入した可能性が考えられました。
(2)クレーム内容…鶏唐揚からプラスチック様の異物が出てきた。何なのか知りたい。
   ↓
検査内容及び所見…異物は比較的硬い半透明の物質で、一見するとクレーム内容の通りプラスチック片のようでした。そこで蛍光光学顕微鏡観察を行った結果、軟骨に特徴的な構造が確認されました(写真-4参照)。以上の結果から、異物は軟骨であると判断されました。
 なお、検体が軟骨、骨、肉片などの動物組織であった場合、状態にもよりますが「SUNATEC e-Magazine vol.017」の豆知識でもご紹介させていただいたDNA鑑定を実施することにより、動物種(牛、豚、鶏、羊及び馬)の判別が可能です。
写真-3 浮遊物の顕微鏡写真 写真-4 異物の顕微鏡写真
2)フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)編
 SUNATECでは、異物の種類に応じて最適な方法を用いた測定、解析を行っています。分析手法として、主に無機化合物の分析に用いるKBr:臭化カリウム錠剤法、数mm程度の微小な異物について測定可能な顕微透過法、金属板など赤外光を透過しない物質に付着した微量異物の分析に対応した顕微反射法、及びラミネートフィルムなど層状構造を有する異物に対して力を発揮する反射ATR法の合計4種類あり、これらの手法を単独または複数種用いて検査対応を行っています。
 フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた検査報告事例をご紹介いたします。
(1)クレーム内容…刺身のトレーにミミズのような異物が混入していた。何であるか調べて欲しい。
   ↓
検査内容及び所見…異物は、ミミズのように多数の体節が認められ、色調も類似していました(写真-5参照)。しかし、左端に破断面があり、そこから体内の内容物が流れ出ている様子が確認されなかったことから、異物は模造品である可能性が示唆されました。そこでFT-IR分析を行った結果、図-1に示すようにポリ塩化ビニルのスペクトルとほぼ一致しました。以上の結果から、異物はミミズではなく、ポリ塩化ビニルを主成分とするプラスチック片(模造品)であると考えられました。
 なお、異物がミミズであった場合、FT-IR分析を行うとタンパク質などの成分が検出されます。
写真-5 ミミズ様異物の外観写真 図-1 ミミズ様異物のIRチャート
3)蛍光X線(EDX)分析編
 蛍光X線分析は、主に金属、ガラス、造岩鉱物などの無機化合物を分析する手法としてよく用いられます。今回は、蛍光X線(EDX)分析装置を用いた変色原因の究明に関する報告事例をご紹介いたします。
(1)クレーム内容…パンの表面が灰緑色に変色している。カビが生えているのではないか。
   ↓
検査内容及び所見…カビではないかという観点から、変色部分(写真-6参照)について外観及び顕微鏡観察を行いました。その結果、カビに由来する胞子や菌糸などの形態は確認されませんでした。そこで、変色部分の深部を確認したところ、非常に硬い黒色の物質が多数埋もれていました(写真-7参照)。黒色物質の性状から、微小な金属片である可能性が示唆されたため、蛍光X線(EDX)分析を行いました。その結果、元素として銅(Cu)が検出されました(図-2参照)。以上の結果から、パンの表面が灰緑色に変色していた原因は、カビではなく微小な銅主体の金属片の混入によるものであることが特定されました。
 このように、蛍光X線(EDX)分析は、無機化合物の同定手法という範囲に限らず、変色原因の究明を行う上でも有用な分析手法であると言えるでしょう。
写真-6 変色部分の外観写真 写真-7 変色部分に埋もれていた黒色物質
図-2 黒色物質のEDXチャート
3 検査から再発防止に向けたコンサルティング

 「2 応用的な検査内容と報告事例」で異物検査の様々な可能性についてご紹介させていただきました。一方で、異物クレームが発生した場合、私たちをはじめとした分析機関や自社内で検査を行い、その結果を元に(クレームをおっしゃられた)お客様にご報告に行き納得して頂く、というようなお話をよく耳にします。しかしながら、お客様の納得が得られた時点で、異物クレーム対策は完了したと思われていないでしょうか。SUNATECでは、次の3つのステップをお客様と共に確実に実行することで、異物クレーム再発防止に対するトータルソリューションを提供しています。

1) Step-1:異物の特定

 「Step-1」は、これまでにご紹介させていただいた「異物が何であるかを調べる。」ことに主眼を置き、正確かつ迅速に、また検査依頼頂戴したお客様にご満足頂けるような結果をご報告できるよう日々取り組んでいます。

2) Step-2:原因特定

 「Step-2」では、異物が発生した原因をお客様と共に特定いたします。このStep-2を行うか否かが、今後同様のクレームが発生するか否かのカギとなります。実施例をご紹介いたします。お菓子(未開封品)の表面に淡青色の繊維状の異物があり、カビではないかとのクレームが発生しました。検査を行った結果、カビではなく合成繊維(ナイロン)であることが判明しました。
 今回のポイントは、未開封品のお菓子の中から異物が発見された点にあります。即ち、流通段階や消費者の手元で混入したのではなく、製造ラインでの混入の可能性が疑われます。そこで、原因究明のためにお客様と共に工場内部を視察した結果、製造工程で使用されている作業着に原因があるのではないかと推測されたため、作業着の材質鑑定を行いました。材質鑑定の結果、現場Aでは植物繊維と合成繊維が混合された作業着、現場Bでは植物繊維(綿)の作業着を着用していましたが、現場Cでは、ナイロン製の作業着を着用していることが判明しました。さらに、現場Cで着用している作業着の色が淡青色であったことから、今回の異物混入の原因は、現場Cで着用している作業着と特定されました。

3) Step-3:再発防止に向けたコンサルティング
 「Step-3」では、再発防止策をお客様と共に考え、また、必要に応じて私たちからご提案をさせて頂きながら、最良と考えられる再発防止システムの運用に向けて全力で支援させていただきます。
はじめに、再発防止に向けて工場内の点検を行いながら、危害分析を行います。これは、異物クレームの要因となった箇所にとどまらず、同様のクレームが発生する可能性がある箇所、さらには工場内全体まで隈なく調査、確認を行います。
 次に、調査確認内容をもとにして、なぜ異物が発生したのか、再発を防止するためにはどうすればよいか、今後の作業予定内容などについて、経営者の方も含め従業員の皆様にご説明させて頂きます。同時に、再発防止を目的とした管理手順文書の作成、支援を進めさせていただきます。管理手順文書が出来次第、その内容に従い作業が行われているか、また運用上の不具合がないかについて検証します。不具合が見つかった場合は、直ちに文書を見直し、更新作業及び更新内容の周知徹底を実施します。そして、再発防止策としての効果が確認でき、企業の文化として従業員全体に行き渡るまで普及活動を行います。また、システムが構築された後は、定期的なアフターフォローを実施いたします。
4 まとめ
 最近、食品の安全、安心に対する関心が非常に高まっています。その理由として、食品メーカーの度重なる不祥事があったり、行政からの通知や監視の強化が図られたり、新聞、テレビ等でもしばしば取り上げられているように故意の混入などが挙げられます。これに連動するように消費者の食品を見る目のレベル、すなわち異物を発見する目のレベルも非常に高くなってきています。このような厳しい状況ではありますが、安全、安心な食品の製造を目指していらっしゃる皆様と共に、私たちも力を合わせて頑張っていきたいと考えております。
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