ブドウ球菌食中毒の原因毒素はエンテロトキシン(以下SE:Staphylococal enterotoxin)と呼ばれております。SEは免疫学的にA〜Eの5型に分類される分子量約3万の物理化学的に非常に安定なタンパク毒素ですが、最近多くの新しいタイプが報告されています。その中ではH型が食中毒の原因毒素として重要と思われます。エンテロトキシンは腸管毒と訳されるが実際には嘔吐毒であり、その名称は、最初にブドウ球菌の毒素に対して与えられましたが、後に大腸菌、コレラ菌、ウェルシュ菌の下痢毒にも用いられるようになりました。これらの下痢毒を互いに区別するために、菌名を冠して例えばウェルシュ菌エンテロトキシンというように呼ばれています。ブドウ球菌エンテロトキシンは、成書には100℃で30分間の加熱によっても安定であると書かれていますが、この根拠の一つは表2に示した人体実験によるものと思われます。しかし、100%安定であるというわけではありません。いずれにしても、SEは食品中で一旦産生されると通常の調理方法により無毒化することは困難です。
ボツリヌス菌は酸素がない条件でのみ発育可能な偏性嫌気性菌で、耐熱性のある芽胞の状態で土壌や泥中に常在し、農産物や魚類を汚染します。医学的に重要であるとの観点から、例外もありますが、ボツリヌス毒素を産生する菌がボツリヌス菌であるということが分類・同定の基本になっています。ボツリヌス菌はタンパクや糖の分解性などの生化学的性状が異なる、すなわち分類学的に異なるI群〜IV群の複数の菌種を一括したもので、いわば「グループ名」と解釈されます(表3)。食品分離株を16SrRNAのホモロジー検索により同定したために、誤ってボツリヌス菌と決定され慌てて相談を受けたこともあります。この菌は毒素を産生しなかったので、I群ボツリヌス菌と分類学的に区別できないスポロゲネス菌となりました。あくまでも毒素産生性がボツリヌス菌同定の基本であるという事を念頭に置いてください。
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