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中国製冷凍餃子事件と食料自給率
東海コープ事業連合商品安全検査センター 斎藤勲
 2008年1月30日の新聞やTV報道で中国天洋食品で製造された冷凍餃子で、3家族10人が高濃度の有機リン系殺虫剤メタミドホスにより急性中毒を発症した。うち2家族は日生協のコープ商品での発症であり、生協の商品だからと思って購入していただいたのに、本当に申し訳ないのと今後の対応に責任を感じている。
 中国における残留農薬の違反事例、誤飲を含めた食中毒事例は以前から発生しており、昨年の新華社電によれば1-3月に主要37都市で購入した野菜類を検査した結果、中国の基準にてらして7.2%が違反であったとの報道があった。日本国内での検査では農薬残留自体はあるが違反事例は少ない。中国のこういった状況の中で、どのように生産現場から囲い込みながら商品を作っていくのか、原料を供給してもらうのかが中国産品の重要課題である。
 2002年の冷凍ほうれん草(ブランチング後凍結した加工食品扱い)に有機リン剤クロルピリホスが残留し問題となった。加工食品には残留基準がなかったが、簡易な加工操作のものにはほうれん草の国内基準0.01ppmが適用され、それを超える検査結果が多く報告され日中の貿易摩擦問題に発展したことは記憶に新しい。その問題から今あるポジティブリスト制度へと残留農薬管理が大きく舵を切った事件でもあった。この教訓を活かして、冷凍野菜を輸入する会社は、圃場からの囲い込み、農薬管理・散布の徹底、工場管理等商品の安全性を確保する仕組みを作り上げてきている。
 そのあたりの実情を知っているものとしては、中国から輸入されるものは違反事例は発生しても中国国内で発生しているような中毒事例などは日本では起きないと思っていた。が、実際起きてしまったのである。
 今回の餃子事件でも、昨年の段階で包材がべったりと汚れていたり、くさくて食べれない等のクレームが発生しており、メーカーは異臭と微生物汚染の両面から検査を行い、トルエンなどの溶剤を検出している。その対応が批判されているが、通常のクレーム対応からすると自分なら出来たかといわれると自信を持って応えられないのが実情である。冬場の時期では、商品を食べて腹痛、下痢、嘔吐などの症状が出たとしてクレームがあがってきた場合、発症時間等から多分胃腸風邪か何かではないかと判断して、通常の対応では味覚検査と食材に合わせた微生物検査をやることになるであろう。私たちの場合、溶剤検査等は通常の業務で行っていないので、やる場合は外部委託する形になる。異味、異臭、農薬臭いというクレームがあがってきた場合は、変な言い方だが自分たちでやれることとして農薬検査があるので、むしろ農薬検査を行い入っていないことを説明する場合がある。今回の事件でもどこかの時点でそういった状況に迫られ、先に述べたように積極的ではないが農薬検査をやっていたら大ホームランで事前に防ぐことが出来たり、最後の家族の方の発症まで行かない可能性があったかもしれないと思うと悔やまれる。しかし、今回の事件で餃子等を食べられ健康影響があったと訴えられた方は、全国で5800名くらいに達している。その中で有機リン系殺虫剤による中毒との関連があると判断されたのは、先の3家族10名だけである。この現実のギャップを見ると相当の困難さを感じるが、諦めるのではなく現状を少しでも変えてやっていく姿勢、続けていく姿勢と相手との信頼関係作りが大切であろう。
 今回の中国産冷凍餃子、それに関連して発生する残留農薬問題を受けて、家庭で餃子等を作るため餃子の皮が通常の3倍くらい売れているとか、具材となるニラや野菜等が良く売れる等、冷凍食品離れと国産回帰が進んでいる。こういったことも関係してか、この2ヶ月くらいでニラ、キャベツ等野菜類が2倍から3倍の価格に跳ね上がってもろもろの原材料高騰と相まって家計を直撃している。
 もう少し冷静に物事が判断できるようになってきたら、冷凍食品は悪いものという短絡的な捕らえ方ではなく、その利便性、品質の確かさを今回の事件を教訓にして有益な食料資材として手作りと共に使っていけたらと思う。
 その上で長期的に自給率をどう高めていくのかを考えていく必要がある。ただ、40%であった自給率が39%になってしまったといってあわててもそう簡単に改善できることではない。分かりやすい例が、自給率改善のために国産の牛肉、豚肉をせっせせっせと食べれば食べるほど自給率は下がるというジレンマ(肉は国産だが育てるための飼料は9割が輸入のため、カロリーベースの計算ではそうなる)をどれほどの人が理解しているのか。しかし、米、畜産物、油脂類、小麦の4項目で摂取カロリーの66%を占めている事実を理解しておく必要がある。米は94%と当然のことながら高い自給率を誇っているが100%ではない。畜産物は自給率16%であるが、輸入飼料をやめれば(ありえない話だが)67%に改善される。油脂類にいたっては自給率4%、小麦13%と食生活の欧風化の中、足を引っ張っている。米を除くこの3者をどうするのかにかかっている。農林水産省のホームページでは、朝のパン食を1週間に1回ご飯に代えるだけで2%の自給率改善につながるとある。極端な言い方をすれば、3回ご飯に代えれば6%アップして、農林水産省が目指す45%はすぐに達成できる計算になる。しかし、生活スタイルを変えるのはそんなに簡単ではないので、こういった状況、情報を共有化、理解しながら、個人個人が日常の中で少しずつ代えれるところから代えていくという継続的な姿勢、農業用地の有効活用、製品購買による支持等が今求められている。
 そういった意味では、今回の餃子事件では被害にあわれた方には大変申し訳ない事態であったが、この件をきっかけに消費者が考えなければいけない食料自給率の問題に火をつけてくれたのは不幸中の幸いであったと期待しているところである。
著者略歴
斎藤 勲(さいとういさお)
岐阜県多治見市生まれ。金沢大学薬学部大学院修士課程終了。
杏林製薬研究所、愛知県衛生研究所(30年)を経て、
2004年より東海コープ事業連合商品安全検査センター長。
残留農薬分析の第一人者。     
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