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中国食品の最近の安全状況
アジア食品安全研究センター 佐藤元昭
はじめに
 昨年は国の内外を問わず食品安全上の厄年であったのではないだろうか。
 わが国では、「」と言う文字が2007年を表す文字の第一位に挙げられたように、昔から多くの人々に親しまれて来た老舗の『国民的』ともいわれるような有名食品等で賞味・消費期限に係わる偽装事件が相次いで発覚した。また一部食品加工業での、偽物混入食品が製造・販売された。これらのことは、消費者の食品への信頼性を大きく失墜させてしまった。
 一方、中国産の食品等でも毒物や異物混入事件が相次いで報道され、アメリカを始め多くの国で中国産に対する不信が広まり、「China free」が安全を意味するが如き風潮さえ起こってしまった。
  ここでは、昨年の本誌8月1日号に引き続き中国の食品安全状況について、その後の新しい情報を交えて紹介したい。
1.食料を巡る日中関係
 食料自給率がついに40%を割り込み39%に落ち込んでしまったわが国の、2005年の生鮮野菜の輸入量は約100万tであった。この内、米国からは約14万tであるのに対し、中国からは約60万tと生鮮野菜の約60%を中国産に依存している。
 一方、2004年の中国の農産物輸出は日本向けが約33%、米国、EU、韓国、香港、東南アジア等がそれぞれ10%前後となっており、日本向けの輸出だけが飛び抜けて多くなっている。2000年の輸出状況もほぼ同様であり、この傾向はここ数年続いている。
  このように、日本にとって中国は最大の生鮮野菜供給国であり、中国にとって日本は農産品の最大の輸出相手国である。このため、わが国ではたとえ中国国内の事情であっても、食の安全を脅かすような事件の扇動的とも言えるような報道があるたびに、それが直接わが国にも入ってくるかのような錯覚に陥ってしまう。そして、中国の食品安全体制全般に疑念を持ち、過剰ともいえるような、中国産食品の買い控えを示す傾向にある。一方中国側では、わが国のポジティブリスト制度のような食品安全施策に対して、『緑色関税障壁』(安全を口実にした、先進国による途上国の商品の締め出し行為)ではないかと非常に神経質に受け止めることになってしまう。
2.中国における食品の安全対策
2-1輸出食品の安全対策
 中国にとって農産品の輸出は外貨獲得の重要な手段の一つであり、国内の農業政策(農業技術の向上、農民収入の増加、農村の経済的自立等)上も重要事項である。
 2002年の中国産冷凍ホウレンソウのクロルピリホス残留違反事件では、日中両国政府が相互に緊密な連絡を取り合った。そして、中国側が対日輸出許可企業を登録制として、(1)20ha以上の農地を管理していること、(2)専門の農薬指導・管理者を置いていること、(3)自社で農薬残留検査を行えること、(4)残留農薬検査記録を保管すること等を条件として、厳しい審査に合格した企業や組織でないと対日輸出を許可しないこととした。日本政府もこれを評価し、冷凍ホウレンソウの輸入が再開された経緯がある。
  農産物輸出の最大相手国の日本が、2006年5月末より施行するとしたポジティブリスト制度に対して中国政府は最大の関心を寄せ、敏感に対応した。例えば、2003年から2006年の間に日中政府間でこの制度に対する意見交換や説明会を10回実施している。また、日本の民間人や業界団体などの専門家を招いた勉強会や研究会も数多く実施され、中国側関係者への周知徹底を図った。そして、2006年1月には国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)は傘下の出入境検験検疫局(CIQ)に対し日本のポジティブリスト制度対応策を通知した。これを受けて主要対日出荷港を抱える山東出入境検験検疫局(CIQ)では下記要旨のような特急通達を出した。
山東出入境検験検疫局特急通達58号要旨  (2006年1月27日)
1. 国外の動向・背景・内容を理解し実態を把握すること及び輸出への影響を分析し冷静に対処すること。
2. 主要輸出品に対する要求事項、中国企業の原材料と副材料の検査状況、農薬等の使用・残留状況等を調査し報告すること。
3. 中国企業の監督・管理を強化し、輸出企業の管理水準を高める。中国企業の自社管理能力を向上させる。CIQ及び企業管理人の教育と高水準の安全管理部隊の構築。計測技術水準を日本の技術にあわせること。
 国家質量監督検験検疫総局はさらに、『輸出食品の検査済み標識貼付に関する告示』(2007年6月1日)を行い、同年9月1日から出入境検験検疫局の検査に合格した、全ての食品に検査実施を示す標識(CIQシール)を貼付しなければならないとした。そして、通関時に証書に不具合があったり標識がない食品の輸出を禁止するとした。
2-2中国国内の安全対策

 中国国内でも、富裕層を中心とした消費者の安全意識が向上したことを受け、国内流通食品に対する安全施策を矢継ぎ早に講じている。また、本年8月に開催される北京オリンピックでは海外から多くの選手や観光客が訪中することが確実である。そして、これらの多くの外国人が中国国内で食事をする機会が爆発的に増加する。このため国内の食品の安全対策を確立することが急務となっている。
  1990年代後半に、上海などの都市部でかなり深刻な残留農薬による食中毒事件が発生した。これを受けて、国務院は2001年に「無公害食品行動計画」を策定し、農業部(農水省相当)を実施部署と定め、安全な食品の流通に努めている。そして、2004年には「食品安全工作強化規定」を発表し、農業改革、流通改革、教育と農村市場の管理監督、罰則や地方政府の責任追及等について重点的に取り組むとした。同年に農業部は農業部公告第322号として、パラチオン・メタミドホス等の高毒性有機リン農薬の三段階規制を打ち出した。これは、2004年に製剤登録を抹消し、2005年に使用を綿花・水稲・トウモロコシ・小麦に限定し、2007年1月に高毒性有機リン農薬の国内使用を全面禁止したものである。また、2006年11月には「中華人民共和国農産品質量安全法」を施行し、農産品の品質の安全、公衆の健康維持、農業・農村の経済発展に資することとした。さらに、2007年3月には日本のポジティブリストの試験法と同等の多成分一斉分析法を含む36項目の分析法を、残留農薬等の検査項目を国家標準(GB)として正式に採用した。この結果、中国国内の分析法が統一され、EU、米国、日本の検査と同等のレベルで検査できるようになった。そして、同年7月10日には、中国共産党の第十一次五カ年計画に従って、農業部・衛生部・工商総局・質検総局・食薬監督局等の合同で「国家食品薬品安全十一五規画」を策定した。これによって、食品・薬品・外食衛生等の監視作業の強化と5年後に国内食品の検査率を90%に引き上げ、重大事故には100%対処することを定めた。続いて、同月の26日には、「国務院関与加強食品等産品安全監督管理的特別規定」を公布と同時に施行した。これは従来積み上げてきた各種食品安全に係わる法規の間の漏れを埋めることを狙ったもので、法規に規定がない全ての食品安全を脅かす行為に対処しようとしたものである。

おわりに
 中国の最近のこれら食品安全対策に対し、日本政府は平成19年8月23日付で『医薬食品局食品案全部監視安全課輸入食品安全対策室長通知』で下記要旨の対応策を通知し、効果と状況の推移を見守ることとした。
食安輸発0823002号要旨
1. 中国政府の措置の有効性検証のため、違反事例について、輸入業者からの輸出登録・輸出企業登記の有無、検疫の結果、検験検疫マークの貼付の有無を報告させる。
2. 輸出停止企業については、引き続き当該企業の全ての食品の輸入手続を保留する。
3. 検験検疫マークの貼付の有無にかかわらず、従来どおり、検査命令、モニタリング検査等を実施する。(検験検疫マーク:CIQシールの有無によって)輸入時の検査の取り扱いは変更しない。
 中国政府は、農産品の輸出を非常に重要な国策として捕らえており、国家の威信をかけて数多くの安全対策を講じている。わが国の検疫所も、世界最先端の技術を駆使して、厳しい輸入検査を実施している。この結果、中国食品がわが国の検疫検査で不合格になる確率は欧米諸国のそれより低くなっており、日本の消費者の多くが抱いている、「中国食品=危険食品」とは異なっている。
 日中両国は、地理的に近く、長年にわたり歴史的・文化的・経済的にも深いかかわりを持ち続けてきた。そして過去の不幸な戦争に対する評価や政治体系の違いなど多くの視点の違いも存在する。筆者の独断であるが、日中双方の国民の間にはお互いにこれらを背景にした特殊な複雑な感情が無意識に加味されていることも見逃してはならないように思う。しかし、多くの政治家や有識者が唱えているように、お互いに未来を見据えて、相互理解と相互協力によって、相互の利益を図っていかなければならないように思う。
著者略歴
【所属】
株式会社 アジア食品安全研究センター  
青島中検誠誉食品検測有限公司(中国) 技術顧問
〒104-0043 東京都中央区湊3-13-1
TEL 034-5542-2571 FAX 3555-0710
学歴
1967年3月 東京農工大学農学部植物防疫学科卒業
1969年3月 同大学大学院農学研究科農薬化学専攻修士課程終了
職歴
1969年4月〜1998年1月 昭和電工株式会社
農薬残留分析法開発研究、害虫誘引剤開発研究、魚毒試験法開発研究、
農薬の分解・代謝研究、農薬技術普及業務、医薬品の生体内運命研究、
経皮吸収医薬品開発研究、大量分取HPLC開発研究、
固相抽出技術普及等歴任
(この間50ヶ月間 ジーエルサイエンス(株)出向(顧問))
1998年2月〜2006年10月 財団法人雑賀技術研究所
残留農薬多成分迅速一斉分析法開発
1999年4月〜2003年3月 和歌山大学客員教授 兼任
2003年1月〜2006年10月 青島食品安全研究所 (中国) 研究・技術総監 兼任
2004年1月〜2006年10月 株式会社アジア食品安全研究センタ−技術顧問 兼任
2006年11月 株式会社アジア食品安全研究センタ− 技術顧問再就任
青島中検誠誉食品検測有限公司(中国) 技術顧問
現在に至る
所属学会他 日本農薬学会(農薬残留分析研究会委員)
日本分析化学会(元近畿支部幹事)
日本食品衛生学会会員
日本食品化学会会員
日本環境ホルモン学会会員
内閣府食品安全モニター
著書
1988年 バイオセパレーションの技術(シーエムシー出版 共著)
1997年 生物化学工学講座13巻第2分冊(化学工業者 共著)
1997年 キャピラリークロマトグラフィー(朝倉書店 共著)
2001年 鮫川の野草(自費出版 共著)
趣味
山歩き、山野草観察、魚釣り、俳句、野良仕事
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