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不幸な食品偽装騒ぎを終息させるために 〜各企業は早急に改善計画をたて、対応の優先順位づけを〜
サイエンスライター 松永和紀
 2007年は残念ながら年間を通じて、食品偽装騒ぎに明け暮れることになってしまった。一部の企業の不正と、本質を見ないマスメディアのずさんな報道が相まって、食品業界のイメージは悪化した。2008年はどのような年になるのか? いや、食品事業者が自覚を持って改善に取り組み、その努力がきちんと評価される良い年にしなければならないのだ。
 食品偽装騒ぎでは、質的に異なるいくつかの事柄が混同されて「食の安全が脅かされている」と報道された。一部の企業が不正を働いたのは事実である。消費期限や賞味期限を科学的な根拠もなく延長したり、産地を偽装したり。さらに、問題が表面化しかかった時に隠蔽しようとしたり、取引業者に責任を押しつけようしたことなども、消費者の心証を悪くした。ウソをついてはいけないのは当たり前のこと。問題となった企業は、責めを負わなければならない。
 だが、一連の不正が食品のリスクの増大につながっているかどうかは、また別の話。食品の安全性や品質を俯瞰してみれば、一昔前に比べてはるかに向上していることは確実なのに、多くの消費者が「危ない食品が増えた」と感じている。これは不幸な事態だ。
 その結果、企業は会社のイメージを守るためにさらに過剰な対応を迫られ、リスクの上がっていない食品の販売を見合わせたり、処分したりする。そのことをまた、メディアが大きな問題のように報じてしまう。悪循環である。
 残念なことに、さまざまな問題の遠因となっているであろう食品業界の環境の厳しさは、マスメディアにも消費者にも十分に理解されなかったように思う。
 この10年近く、ひんぱんに行われている制度変更は、消費者の安全安心志向に沿うものであり、安全管理にしても表示規制にしても急速に厳しくなっている。多くの法律が関係し、理解して適正に対応するのはなかなか容易ではない。
 その反面、消費者の低価格志向は強く、多くの企業は経営体力を落としている。これらのことが、問題頻発と無関係だったとは思えない。目先のやりくりに追われ、生産管理や表示の見直しにまで手が回らない、という企業も多いのが実態だ。
 改革はコストを伴う。例えば賞味期限や消費期限の設定。以前は製造年月日を表示すればよかったが、1995年に期限表示に切り替わった。さらに2005年、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」も定められ、理化学検査や微生物検査などを行うことが示された。
 だが、このガイドラインに沿って自社で期限を設定するとなると、大変な金額がかかる。私が、売り上げ100億円程度のある企業に尋ねたところ、自社での検査費用や検査を行う人件費などにより、最低でも1商品あたり数十万円かかるとの回答だった。検査機関に検査を外注することでコスト削減は可能だろうが、限界もある。中小企業にとって負担は軽くない。勢い、これまでのように勘と経験で期限を設定する、ということにもなってしまう。
 また、食品表示にはJAS法や食品衛生法、不正競争防止法や景品表示法、健康増進法など、関連する法律がさまざまある。すべての法律をクリアできる表示にするのは、意外に難しい。
 ある生協の品質保証部に尋ねたところ、現在、取り扱い商品の表示を、仕様書などさまざまな書類と照らし合わせてすべてチェックしているところだという。間違いは非常に多いそうだ。その職員は、「これだけ法律が複雑では無理もない部分がある」と企業に同情していた。
 商品の価格は抑えられ、表示が現在の法令を遵守しているのか、チェックしようにもなかなかその余力も持てぬまま、ずるずると現在まで来てしまったという企業も少なくないだろう。
 食品業界の9割は中小企業だ。苦しい事情はよく分かる。マスメディアの報道に大きな問題もある。だが、ここまで食品業界に厳しい目が注がれるようになった以上、もう言い訳はきかない。先延ばししていて発覚した時に「故意の偽装」と誤解されては、企業の存続すらも危うくなる。個々の企業は早く対策を講じて欲しい。
 まずは、客観的な目を持つ必要があるだろう。食品業界は、経験が非常に重んじられる世界だ。だが、それだけでは通用しない時代になっている。品質保証部などを設置し、法令や基準、規範などを改めて参照し公的窓口に相談することも時には必要だ。厳しい目で生産管理工程や表示などを再評価する必要がある。
 そのうえで、改善計画をたて、対応の優先順位をつけることが重要だろう。特に、アレルギーに関する表示漏れなどは緊急を要する。一方、期限設定は、すぐにガイドラインに沿った科学的設定へと移行するのは無理でも仕方がない。だが、計画をたて移行予定時期を明確にして努力してほしい。
 そして、必要であれば速やかに公的機関に改善内容を報告し取引先にも情報を明らかにし、消費者にも不利益がある場合はなんらかの形で伝えてほしい。最近は、農水省のJAS法と食品表示に関するウェブサイトにも、企業による「自己申告情報」のページが設けられている。
 ミスはだれにでも、どの企業にでも起こりうる。消費者も、そのことは分かっている。消費者は、企業に誠実な姿勢を求めており、毅然と真摯に対応してくれれば安心するのだ。
 前述の、表示の問題点をチェックしている生協は、法令を遵守するための表示変更が企業の大きな負担とならないように、包装材を次回仕入れる時などに是正するように求めているそうだ。こういう流通業者もある。過剰な反応が生産コストを上げ、最終的には消費者に不利益となって跳ね返ってくることを分かっている。
 消費者はもうそろそろ、感情的な批判をやめ、合理的なリスク判断を行えるようにならなければならない。うっかりミス判明による食品回収や廃棄がもったいないことに気付かなければならない。
 企業側もウソやごまかしは止め、苦しくとも早急の見直しを。消費者、企業双方が変わることで、2008年を実り多き年にしたい。
筆者略歴
松永 和紀(まつなが わき)
長崎市生まれ。東京都立西高等学校卒業。
京都大学農学部農芸化学科、同大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。
毎日新聞社勤務10年を経て2000年1月よりフリーランスの科学ライターとして活動。
著書
『「食品報道」のウソを見破る食卓の安全学』(家の光協会)
『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(同)
「メディア・バイアス〜あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)
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