予防医学の重要性が認識されるに従い、未病段階で特異的に発現する「バイオマーカー」(生体指標)を用いた、疾病リスク低減のための簡便な診断法の開発が強く求められている。このような背景で、特に注目したのが、酸化ストレスである。酸化ストレスは、喫煙や飲酒、過度の運動や紫外線、さらにさまざまな精神的なストレスでも生じることが明らかにされ、その蓄積が生活習慣病の原因である、と考えられている。われわれの研究室で開発された酸化ストレスに特異的なモノクローナル抗体を用い、I型アレルギー抑制や抗肥満、脳内老化制御などの疾患予防バイオマーカーと組み合わせることで、未病診断法を開発することができるのではないか、また、抗肥満をはじめメタボリックシンドロームの予防が期待できる機能性食品の評価法として利用しようという試みである。具体的には、一滴の血液やダ液、尿を対象に、疾患予防バイオマーカーや酸化ストレスバイオマーカーに特異的なモノクローナル抗体をスライドガラス上にスピンコートされたアゾポリマーに光照射によりインプリンティングすることで「抗体チップ」を作製し、化学発光で簡便、かつ、安価に機能評価を行おうとするプロジェクトである。我々が直面している団塊の世代の大量退職という、今までに経験したことのない大きな流れの中で、なるべく長く未病段階でとどめておくことで健康長寿を保っていたいと、誰もが願っているといっても過言ではないだろう。このプロジェクトは、科学技術振興機構(JST)の研究費を得て、2008年中には大学発ベンチャー企業を創設し、科学的根拠に基づく「健康機能食品」、いわゆる、”Evidence-based FunctionalFoods”の開発へのツールを提供する計画である。
ヒトが摂取後の抗酸化機能評価と共に、重要視されているのが、食品素材中の「抗酸化機能成分」の抗酸化活性の分析法である。これまでに多種多様な抗酸化性測定法が報告されているが、どれも一長一短があり、統一又は公定法化(分析値の妥当性確認)された方法がないのが現状である。このような背景の中で、ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)は、1992年に米国農務省(USDA)と国立老化研究所(National Institute on Aging)の研究者らにより開発された抗酸化力の新しい指標で、食品中の抗酸化力を分析する方法として優れており、現在、野菜・果物などの食品素材や加工食品に至るまで最もデータベースが充実した分析法である。そのため米国での認知度は高く、既にORAC値を表記したサプリメントや飲料の上市が進んでおり、その数は100種類以上にもなっている。しかしながら、ORAC法だけで抗酸化機能をカバーすることは難しいのが現状で、ORAC分析法の公定法化(分析値の妥当性確認)の研究を行うこととした。特に、カロテノイド類は、ORAC法では低い値しか得られないので、現在、一重項酸素捕捉活性も含め、ポリフェノール類もORACとの間の相関性を確認しながら、産官学が連携して2008年中には、統一見解を提案したいと期待している。2007年に設立されたAntioxidant-Unit 研究会(http://www.antioxidant-unit.com/index.htm)が中心になり、一層の発展のためには、産業界の協力、特に、事務局を快く引き受けていただいた(財)食品分析開発センター(SUNATEC)をはじめ、産官学一体の活動が必須であると確信しており、世界に発信するきっかけとなって欲しいと切望する。