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残留農薬等に関わる情報収集源としての学会
はじめに
残留農薬に係る情報収集源として、皆様は厚生労働省のホームページ、農薬に関わる各ホームページ、検査機関のホームページなどインターネットを通じていろいろな情報を得られている。もしくは、各種講習会などに参加するなどといったことかと思います。今回は情報源としての学会、特に残留農薬に係る学会としてこの秋に開かれました2つの学会について参加報告も兼ねて紹介さていただきます。
第30回農薬残留分析研究会
http://wwwsoc.nii.ac.jp/pssj2/committee/residue.html
開催日時 : 平成19年10月4、5日
開催場所 : 岩手県盛岡市民文化ホール
本研究会は日本農薬学会に属する学術小集会で、年1回、秋に全国持ち回りで開催されています。ここに参加される方々は古くから農薬登録に伴う「作物残留試験」を行ってきた方が多くいらっしゃいます。農薬登録に伴う作物残留試験は、登録の際に農薬を散布して一定期間の農薬の減衰を見る試験です。よって、まず作物中の残留農薬量を測定する技術が必要となりますので、非常に分析法の開発力がある方々が参加されている研究会といえます。そういった兼ね合いもあり、農水省関係の参加者が多いと言えます。またこの作物残留試験で開発された試験法は現在の厚生労働省の通知試験法として利用もされています。どちらかというと残留農薬の分析マニアの集いといえるかもしれませんが、厚生労働省から通知に至っていない農薬の分析法の開発などの発表も聴講することが出来、近いうちにどのような農薬試験法が世に出てくるのかなどを予測することが出来たり、分析技術のノウハウの情報交換においては非常に有意義です。
今回の講演で、検査機関としては非常に興味ある内容として次のような講演がありましたので少し詳しく紹介させていただきます。これにより通知試験法と同等以上の試験法で求められるパラメータが明確になりました。国立医薬品食品衛生研究所 第三室長 松田えり子氏の「試験法評価ガイドラインについて」です。
(11月15日に「食安発第1115001号」として通知されました。詳細はそちらを確認ください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/dl/071115-1.pdf
食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン(抜粋)
評価方法
食品毎に、妥当性を評価する試験法の分析対象である農薬等を添加し、測定結果から以下のパラメータを求め、それぞれの目標値等に適合していることを確認する。
→ 選択性
分析対象である農薬等を含まない試料(ブランク試料)について操作を行い、定量を妨害するピークが無いことを確認する。
→ 真度(回収率)
同一濃度の分析対象である農薬等を添加した試料(以下「添加試料」という。)5個以上を試験法に従って定量し、得られた定量値の平均値の添加濃度に対する比を求める。真度(回収率)の目標値は表1のとおりとする。
→ 精度
添加試料の分析を繰り返し、定量値の標準偏差、相対標準偏差を求め、併行精度及び複数の分析者又は分析日による室内精度を評価する。試行の回数は5回以上とする。この場合、室内精度評価のための枝分かれ実験により、併行精度と室内精度を同時に評価することが可能である。また、内部精度管理データを用いて評価することも可能である。併行精度、室内精度の目標値は表1のとおりとする。
→ 定量限界
基準値が定量限界と一致している場合には、以下の条件を満足していることを確認する。
(1) 定量限界濃度を添加したブランク試料を分析したとき、表1の真度(回収率)及び精度(併行及び室内)の目標値を満足していること。
(2) クロマトグラフィーによる分析では、定量限界濃度に対応する濃度から得られるピークが、S/N≧10であること。
表1 各濃度毎の真度(回収率)及び精度の目標値
濃度(ppm) 試行回数 回収率(%) 併行精度(RSD%) 室内精度(RSD%)
≦0.001 5 70〜120 30> 35>
0.001<〜≦0.01 5 70〜120 25> 30>
0.01<〜≦0.1 5 70〜120 15> 20>
0.1< 5 70〜120 10> 15>
添加を行う食品の種類及び添加濃度
→ 添加を行う食品の種類
試験法を適用しようとする食品から選択するのが基本である。一律基準を考慮した場合には、全ての食品が対象となるが、全ての食品について評価するのは現実的に困難であるので、代表的な食品を選択する。具体的には、成分としての特性及び抽出法の違いを考慮して、それぞれの目的に応じて、原則、下記に示すものを選択する。
(1)農産物
穀類(玄米等)、豆類(大豆等)、種実類、野菜(ほうれん草:多葉緑素、キャベツ:多イオウ化合物、ばれいしょ:多デンプン)果実(オレンジ、りんご等)、茶、ホップ、スパイス等
(2)畜水産物
牛、豚、鶏等(筋肉・脂肪・肝臓・腎臓)、鶏卵、牛乳、はちみつ等養蜂製品、魚介類(うなぎ:多脂肪)
日本食品衛生学会 第94回学術講演会
http://shokuhineisei.or.jp/
開催日時 : 平成19年10月26、27日
開催場所 : 静岡県立大学
本学術講演会は、年2回、春と秋に行われています。春は東京、秋は全国持ち回りでの開催が多くなっています。微生物、食品中の化学物質など、広く食品衛生に対する発表がありますがここ2年ほどはポジティブリスト制度関連で農薬、動物用医薬品の発表が多くなっています。ここに参加される方々は、先の農薬残留分析研究会が農林水産省関係者が多いのに対して、厚生労働省関係者が多く見られます。また、食品メーカーの発表が多いのも特徴かと思います。昨年度までは、農産物に対してGC/MSやLC/MSを用い、いかに多くの農薬を測定するか、その技術発表が多く見られましたが、今秋の農薬関連の発表特徴としては、一斉分析の対象食品が香辛料、畜水産物、種実、ミネラルウォーターであるなど食品マトリクスを一歩進めたもの、対象農薬が高揮発性のものなど、問題点が明らかになった食品や農薬に対しての検査方法の検討発表が多く見られました。また、さらにリスク管理を大局的に見ようという発表も見られてきました。LogKow(Pow):オクタノール/水分配係数などの農薬物性を指標として、原料に農薬等が残留していた場合に加工品にどのような残留を見せるか、その加工係数を設定できないかという試みです。昨年の今頃に東郷湖のシジミにおいて、河川経由のドリフトとして非意図的なクミルロン汚染が見られ、その後も残留量が減らないことが問題となりましたが、これもLogKow(Pow)をもとに生物濃縮係数LogBCF(Bio Concentration Factor)が求められ基準値が設定されました。(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/dl/s0420-4-48.pdf)今後、このような加工係数などのデータは非意図的な汚染に対してのリスクを考える上で非常に有効に働くといえると思います。
なお、弊財団からも本講演会で発表をさせていただいており、同メールマガジンの「イベント情報」に報告させていただいていますのでそちらも参照いただけると幸いです。
おわりに
今回は農薬関連の情報収集源として、2つの学会を紹介させていただきました。両学会とも発表内容自体も当然有意義ではありますが、特に懇親会においての情報交換が非常に有意義ですのでぜひご参加ください。しかし、そうは言っても知り合いが居ないと懇親会も思うように有意義に過ごせないことも事実です。そんな折には弊財団の者を探していただき、気軽に声をかけていただければいろいろ情報交換がさせていただけると思います。
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