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カビと食品衛生について
1.はじめに
 毎年、梅雨時になると食品衛生に関連した話題として取り上げられる機会が増える「カビ」。
その理由は、梅雨時の気候が多くの種類のカビにとって最も発育しやすい環境条件(温度20〜30℃、湿度90%以上)となっているからです。
 今回は、カビとはどのような生物なのか、また、食品からの検出頻度が比較的高いカビの事例と特徴、増殖条件及びそれらの制御方法についてご紹介したいと思います。
写真-1 パンに生育したカビ
写真-1 パンに生育したカビ
2.カビとは
 カビは、微生物の分類学上では酵母やキノコと同じ真菌類に属します。カビの基本形態は胞子、菌糸及び特殊器官の3つから構成されています。カビの繁殖は胞子によって行われ、生育に適した条件が整うと胞子が発芽し菌糸を伸長します。菌糸は次第に枝分かれして菌糸体を形成し、形成された菌糸体から出てきた新たな菌糸の枝に胞子を作り、胞子が再び飛散することで次の増殖サイクルへ進みます。このようなサイクルを繰り返すことによって、カビは繁殖を行っています。
3.食品から検出されるカビ
 カビに汚染される食品として、穀類、柑橘類、白米、餅、パン、生菓子、ジュースなどデンプンや糖分を多量に含む食品、チーズ、乾燥魚介など水分が少ない食品などが挙げられます。以下に実際の検査で検出されたカビの事例とその特徴をまとめました。
Aspergillus 属
→ (1)俗名
コウジカビ
→ (2)食品の一例
穀類、乾燥食品、コメ、パン、味噌など
→ (3)特徴
味噌、醤油、清酒の種麹菌として用いられるAspergillus oryzaeや天然発ガン物質では最強のアフラトキシンを産生するAspergillus flavasなどが該当します。一般に乾燥に強く、熱抵抗性を有します。
なお、Aspergillus nigerの俗名はクロコウジカビといいます。
写真-2 Aspergillus 属
写真-2 Aspergillus 属
Penicillum 属
→ (1)俗名
アオカビ
→ (2)食品の一例

穀類、乾燥食品、果物、ジュース、加工食肉製品、餅、パン、みかん、チーズなど

→ (3)特徴
穀類、植物、土壌、空気中、室内に生息。
カマンベールチーズを作る際に用いられる Penicillium camembertiや抗生物質の一種である ペニシリンを産生するPenicillium notatum、 シトリニン(カビ毒)を産生するPenicillium citrinum などが該当します。
写真-3 Penicillium 属
写真-3 Penicillium 属
Cladosporium 属
→ (1)俗名
クロカビ
→ (2)食品の一例

穀類、乾燥食品、冷蔵食品、和洋菓子、餅、パン、魚肉製品など

→ (3)特徴
大気中に最も多く生息し、食品以外にも 木材、皮革、ハウスダスト、風呂目地などからも検出されます。
写真-4 Cladosporium 属
写真-4 Cladosporium 属
Wallemia 属
→ (1)俗名
アズキイロカビ
→ (2)食品の一例

羊羹、ケーキ、チョコレート、ジャム、カステラなど高い糖分を含む食品、乾燥食品など

→ (3)特徴
好乾性の代表的なカビで、食品以外にも土壌、空中、ハウスダストなどからも検出されます。
写真-5 Wallemia 属
写真-5 Wallemia 属
Rhizopus 属
→ (1)俗名
クモノスカビ
→ (2)食品の一例

味噌、パン、野菜、果物など

→ (3)特徴
非常に湿っぽい食品に生育しやすいカビで、その名の通りいったん生育をはじめると急速に増殖し、見た目がクモの巣のようになります。但し、乾燥には比較的弱い種類のカビです。
写真-6 Rhizopus 属
写真-6 Rhizopus 属
4.カビの増殖と制御 
 カビに限らず細菌、酵母などの微生物の増殖に関与する環境条件として、温度、湿度、酸素、pH(水素イオン濃度)などが挙げられます。カビの至適増殖条件とその制御方法を以下にまとめました。
温度
 至適温度は20〜30℃であることから、カビの増殖を抑制するためには5℃以下に冷蔵して保管することが望ましい。但し、冷蔵庫の過信や庫内での長期保管は要注意です。
 なお、参考までに細菌の至適温度は、種類にもよりますが30〜37℃といわれています
湿度
 一般に相対湿度70%以上で生育が可能で、極めて低い相対湿度(40%以下)では生育が困難になります。したがって、カビの増殖を抑制するためには湿度を極力低く保つことが重要です。
 なお、参考までに細菌は相対湿度96%以上、酵母は95%以上で生育が可能となります。
酸素
 カビのほとんどの種類が酸素なしでは生育できない、いわゆる偏性好気性です。したがって、カビの増殖を抑制するためには酸素を遮断するような手法(脱酸素剤等の使用)をとることが望ましいといえます。
pH
 至適pHは、若干酸性側のpH5.0〜6.5で発育する種類が多いです。しかしながら、カビの種類によっては、さらに低いpHでも生育可能な種類も存在します。
 なお、細菌の至適pHは、一般にややアルカリ側を好むことから細菌対策として食品のpHを酸性領域にすることによって細菌の増殖は抑制できても、カビにとってはむしろ好条件となり得る可能性があることから、注意が必要です。
5.カビに対して有効な常用消毒液
 カビ対策として、上記のようにカビの性質を考慮し環境条件を制御する方法もありますが、市販されている消毒剤を用いて効果的にカビ発生を制御する方法もあります。カビを含めた様々微生物に対する有効性を表-1にまとめました。
表-1 主な常用消毒薬とその有効性
分類/消毒薬の一例 微生物
細菌 芽胞 真菌 ウイルス
アルコール類:エタノール、イソプロパノール
× ○〜△
アルデヒド類:ホルマリン、グルタルアルデヒド
塩素化合物:次亜塩素酸ナトリウム
過酸化水素:オキシドール
ビグアナイド類:グルコン酸クロルヘキシジン × ×
フェノール類:フェノール、クレゾール × ×
陽イオン界面活性剤:塩化ベンザルコニウム ×
ヨウ素化合物:ポピドンヨード
両面界面活性剤:アルキルジアミノエチルグリシン × ×
◎:有効 ○:やや有効 △:無効の場合もある ×:無効
6.まとめ
 カビの種類は約80,000種類ともいわれ、ここでは紹介しきれないほど多く種類のカビが存在することが知られています。したがって、原材料の搬入及び保管時をはじめとして、食品の製造、保管、流通及び販売時に発生する可能性があるカビの種類や特徴を考慮した上で、環境条件を制御し、必要に応じて適切な常用消毒薬を用いた消毒操作を確実に実施することで、カビの発生を総合的に予防することが重要であると考えられます。また、定期的に環境調査(落下菌、浮遊菌検査)や衛生調査を実施し、問題箇所の把握及びその予防策を立てることをお勧めします。
以上
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