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特別講座─天然着色料の分析について(4)
逆相薄層クロマトグラフィーによる食品中のベニバナ黄色素の分析
金城学院大学 薬学部 岡 尚男
1.はじめに

 フラボノイド系色素は植物の葉、茎、花弁、果実等に広く存在し、黄、赤、青色の広範な色調を有する。中でも、ベニバナ黄色素は広く食品に使用されているが、色素成分の組成が複雑なために、TLC上で主色素成分の明瞭なスポットは得られず、簡便な逆相薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析は困難であった。そこで、著者らはベニバナ黄色素を固相カートリッジにより精製後、分析を試みたところ、主成分の明瞭なスポットが得られ、食品分析への応用も良好であることを見出した。本稿ではベニバナ黄色素のTLCによる簡便な分析法を紹介する。

2.ベニバナ黄色素について
 ベニバナ黄色素は、キク科ベニバナの花より水で抽出して得られる黄色色素であり、主成分はフラボノイド系のサフロミンである。アルカリ性でやや赤みを帯びるが、耐光、耐熱性に優れ、安定な色素である。水、アルコールに溶け、油に溶けにくい性質を持っている。このような特性を生かして、ジュース、キャンディー、ガム、ゼリー等に使用されている。
3.ベニバナ黄色素の精製
 ベニバナ黄色素をそのままTLCに供すると、Fig. 1Aのようにたくさんのスポットが連続してプレート上に現れ、良好な分離を得ることは不可能である。これは、ベニバナ黄色素が多くの色素成分より構成されているためと思われる。そこで、ベニバナ黄色素をイオン交換カートリッジであるDEAカートリッジにより精製したところ(精製方法はFig. 2に示す)、Fig. 1BのようにRf 0.36、0.57、0.68に3つの明瞭なスポットを確認することができたので、これらの3つのスポットを指標成分としてベニバナ黄色素を分析することとした。
4.TLC条件の検討
 DEAカートリッジにより精製したベニバナ黄色素を良好に分離同定できるTLC条件を種々検討した結果、TLCプレートとして逆相C18を、展開溶媒として2-ブタノン-メタノール-5 %硫酸ナトリウム-5 % 酢酸 (3:2:5:5)が最も良好な分離を示した。
5.食品中からの色素の精製
 上述したように、ベニバナ黄色素は水溶性であるので、食品中からの抽出は水を用いることとし、精製についてはDEAカートリッジが有効なことが判明しているので、これを用いることとした。しかし、食品からの水抽出物中には、DEAカートリッジのイオン交換能を大幅に超える膨大な量の夾雑物質が存在することが考えられたので、DEAカートリッジによる精製の前に、C18カートリッジによる予備精製を行うこととした。すなわち、食品からの抽出液をC18カートリッジに保持した後、10 %メタノールを用いてカートリッジを洗浄することにより、より効果的なDEAカートリッジでの精製が可能となった(Fig. 2)。
6.市販食品への適用
 試料中の夾雑物のRf値に与える影響を検討するために、市販食品市販食品35 試料を上述の精製法により精製し、逆相TLCにより分析し、その代表例をFig. 3に示した。また、TLC上における標準色素のRf値と試料中の色素のRf値の相違の度合いは前回と同様に、試料中色素のRf値(Ra)/標準色素のRf値(Rs)で表し、再現性はそれらの変動係数で評価した。Rf値0.36のスポットのRa/Rs値の平均値は1.02、変動係数は8.1%、Rf値0.57と0.68のそれらは、それぞれ1.01及び4.8%、1.00及び3.2%であった。このことは、ベナバナ黄色素の試料中のスポットの位置は、標準品のそれとほとんど同じ位置に現れ、再現性にも優れていることを示している。したがって、今回ご紹介した方法もル−チン分析にも十分に適用できると考えられるので、本稿が読者にとって有益な情報になれば幸いである。
謝辞

 本研究は、愛知県豊川保健所田原支所 渡邊美奈恵氏、愛知県衣浦東部保健所 尾関尚子博士、愛知県食品衛生検査所 林 智子博士、岡崎市保健所 板倉裕子氏、愛知県衛生研究所 伊藤裕子博士、後藤智美博士らとの共同研究で実施されたものであり、その旨をここに記載し、謝意を表します。

文献

M. Watanabe, T. Aoyama, Y. Takasu, K. Inoue, M. Terao, Y. Ito, H. Oka, T. Goto, Hi. Matsumoto, J. Liq. Chromatogr., 28, 352-334, 2005.

略歴
岡 尚男(おか ひさお)
【勤務先・職】 金城学院大学薬学部 教授
【最終学歴】

名城大学薬学部(1970年)

【学位】

薬学博士(1986年)

【職歴】 愛知県豊橋保健所(1970年)
愛知県衛生研究所(1972-2005年)
【留学】

米国国立衛生研究所(NIH、1988-89年、一年間)

【受賞歴】 昭和62年度日本薬学会東海支部学術奨励賞(テトラサイクリン系抗生物質の化学的分析法に関する研究)
平成9年度年度日本食品衛生学会奨励賞(逆相クロマトグラフィー及び質量分析法の食品分析への応用)
【主な研究領域】 汎用抗生物質の化学的分析法の検討
向流クロマトグラフィーに関する研究
衛生化学分野におけるLC/MSの応用研究
【主な著書】

Current Issues in Regulatory Chemistry 共著 2000 AOAC INTERNATIONAL
Encyclopedia of Separation Science Vol.5(V) 共著 2000.5 Academic Press
日本薬学会編 衛生試験法・注解 2005 共著 2005.3金原出版 
第十五改正日本薬局方解説書 共著 2006 廣川書店

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