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特別講座 - 天然着色料の分析について(3)
逆相薄層クロマトグラフィーによる食品中の赤キャベツ色素の分析
金城学院大学 薬学部 岡 尚男
1.はじめに
 我が国では、赤色系食品の繊細な色合いを楽しむ傾向があり、食品に使用される赤色色素の種類が諸外国に較べて多い。合成着色料の場合でも、諸外国では赤色色素の使用許可はせいぜい4種類程度に過ぎないが、我が国では6種類の色素の使用が許可されている。それほど、我が国では赤色系食品が好まれ、繊細な色合いを楽しんでいると思われる。天然着色料の中にも多数の赤色の色素があり、広く食品に使用されている。中でも、その代表例は赤キャベツ色素と考えられ、本稿では赤キャベツ色素の逆相薄層クロマトグラフィー(TLC)による簡便な分析法を紹介する。
2. 赤キャベツ色素について
 赤キャベツ色素 は、アブラナ科キャベツの赤い葉より室温時弱酸性水溶液で抽出して得られたものである。主色素はシアニジンアシルグルコシドで、酸性で紫赤色を呈しpHにより色調が変化する。耐光、耐熱性に優れ、特にpH3以下で安定である。水、アルコールに溶け、油に溶けにくい性質を持っている。このような特性を生かして、ジュース、キャンディー、ガム、ゼリー、果実酒等に使用されている。また、果実風味の食品に使用されることが多いため、アントシアニン系色素では、ブドウ果皮色素、エルダーベリー色素、シソ色素と、その他では、コチニール色素と併用されることが多い。
3. TLC条件の検討
 赤キャベツ色素を良好に分離同定できるTLC条件を種々検討した結果、TLCプレートとして逆相C18を、展開溶媒としてアセトニトリル―0.2 mol/Lトリフルオロ酢酸 (1:2)が最も良好な分離を示した(Fig. 1A)。赤キャベツ色素は4つのスポットに分離し、2つの主スポットのRf値は0.39(スポット1)と0.34(スポット2)であった。アントシアニン系色素の化学構造はきわめて類似しているため、他の併用される可能性のあるアントシアニン系色素のTLC上での挙動も確認する必要がある。そこでブドウ果皮色素、シソ色素、エルダーベリー色素、そしてアントシアニン系色素ではないが赤キャベツ色素とよく併用される色素としてコチニール色素のTLC上での分離も併せて行った。Fig. 1B-Eに示すように、赤キャベツ色素の2つの主スポット(スポット1及び2)と他の色素のスポットを比較すると、エルダーベリー色素とコチニール色素のスポットは明らかにRf値が異なり、これらの色素とはTLC上で容易に識別することが可能である。しかし、ブドウ果皮色素が併用された場合にはスポット2のみを、シソ色素の場合にはスポット1のみを指標として同定しなければならず、これらの色素が併用された場合には赤キャベツ色素の同定には注意を要する。
4. 食品中からの色素の精製
 上述したように、アントシアニン系色素は、pHの変動によって色調及び安定性が大きく変化するが、強酸性溶液中では赤色を呈し安定である。そこで、食品中からの赤キャベツ色素の抽出については、0.1%トリフルオロ酢酸溶液を用いることとし、得られた色素抽出液をC18カートリッジを用いて精製することとした。すなわち、得られた抽出液をC18カートリッジに負荷し、カートリッジを 0.1%トリフルオロ酢酸溶液 10mLで洗浄し、色素をメタノール―0.1%トリフルオロ酢酸溶液(9:1)で溶出する手法である。この手法を種々の食品に適用したところ、逆相C18-TLC分析に適した試験溶液が得られたので、Fig. 2に示す試料精製法を作成した。
5.市販食品への適用
 試料中の夾雑物のRf値に与える影響を検討するために、市販食品市販食品45 試料を上述の精製法により精製し、逆相TLCにより分析し、その代表例をFig. 3 に示した。また、TLC上における標準色素のRf値と試料中の色素のRf値の相違の度合いは前回と同様に、試料中色素のRf値(Ra)/標準色素のRf値(Rs)で表し、再現性はそれらの変動係数で評価した。Rf値0.39のスポットのRa/Rs値の平均値は1.00、変動係数は2.6%、Rf値0.34のそれは0.99及び1.7%であった。このことは、赤キャベツ色素の試料中のスポットの位置は、標準品のそれとほとんど同じ位置に現れ、再現性にも優れていることを示している。したがって、今回ご紹介した方法はル−チン分析にも十分に適用できると考えられるので、本稿が読者のお役に立てれば幸いである。
謝辞

 本研究は、愛知県衣浦東部保健所 尾関尚子博士、愛知県食品衛生検査所 林 智子博士、岡崎市保健所 板倉裕子氏、愛知県衛生研究所 伊藤裕子博士、後藤智美博士らとの共同研究で実施されたものであり、その旨をここに記載し、謝意を表します。

文献

Y. Itakura, N. Ozeki, H. Oka, Y. Ito, E. Ueno, T.i Goto, T. Hayashi, H. Ohno, Y. Sasaki, M. Mukouyama, H. Matsumoto, H. Nagase, J. Liq. Chromatogr., 25, 1283-1294, 2002.

略歴
岡 尚男(おか ひさお)
【勤務先・職】 金城学院大学薬学部 教授
【最終学歴】

名城大学薬学部(1970年)

【学位】

薬学博士(1986年)

【職歴】 愛知県豊橋保健所(1970年)
愛知県衛生研究所(1972-2005年)
【留学】

米国国立衛生研究所(NIH、1988-89年、一年間)

【受賞歴】 昭和62年度日本薬学会東海支部学術奨励賞(テトラサイクリン系抗生物質の化学的分析法に関する研究)
平成9年度年度日本食品衛生学会奨励賞(逆相クロマトグラフィー及び質量分析法の食品分析への応用)
【主な研究領域】 汎用抗生物質の化学的分析法の検討
向流クロマトグラフィーに関する研究
衛生化学分野におけるLC/MSの応用研究
【主な著書】

Current Issues in Regulatory Chemistry 共著 2000 AOAC INTERNATIONAL
Encyclopedia of Separation Science Vol.5(V) 共著 2000.5 Academic Press
日本薬学会編 衛生試験法・注解 2005 共著 2005.3金原出版 
第十五改正日本薬局方解説書 共著 2006 廣川書店

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