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食品衛生7Sを実践しよう!
近畿大学農学部  米虫節夫
 人の命を衛る食品を製造する食品産業において、最も大事なことは衛生管理である。食の衛生の上にこそ「食の安全・安心」が成り立っている。しかるに、2000年に起こった食品衛生上の不注意による大規模食中毒事件の教訓を、「対岸の火事」と見てしまい、自社の問題と理解していなかったような老舗の食品企業による不祥事が、マスコミ紙上などをにぎわしている。本稿ではこのような事件を起こさせないようにする方法である「食品衛生7S」について紹介する。
5Sから食品衛生7Sへ
 工業の場で行う品質管理の第一歩は、「5S」(整理、整頓、清掃、清潔、躾)である。日本生まれの5Sは、日本企業の世界的進出に伴って、今や、世界的規模で行われ、企業の品質管理の重要な要素となっている。この活動を行うことにより、作業の効率化が図れ、生産量の増加、売り上げの増加、利益の増加につながる。トヨタグループは、この5Sを徹底的に行っている企業の一つである。
 しかし、この5Sを食品産業に持ち込むとき、整理・整頓段階までは問題なく導入できるが、清掃・清潔の段階でつまずくことが多い。なぜか? 通常の工業5Sは、どのような産業にも適用できるようになっているが、効率を目的とするため、清掃・清潔も肉眼で見た清掃・清潔でしかない。一方、食品産業では衛生管理が大きな課題で有り、肉眼で見た清潔以上に、顕微鏡レベルの微生物を対象とした「清潔」が必要となるからである。
 そこで、微生物レベルの清潔を得ることを目的とした新しい5Sを考えた。食品産業においては、乾燥状態で行う清掃と共に、湿潤状態で行う「洗浄」や、微生物を直接殺すための「殺菌」も必要である。これらを加えて「食品衛生7S」と称しており、筆者が主宰する食品安全ネットワークが中心となって普及に努めている。
食品衛生7Sとは
 食品衛生7Sは、整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・躾・清潔からなりたっており、その構造は、図1のようになっている。整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌は、目的である「清潔」を得るための手段であり、手順書などにより、定められたとおりに行われなければならない。その動機付けが「躾」である。納得の上で、手順書通りの作業をしてもらうためには教育が必要である。この手段としての整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌と、躾がキチンとできた段階で得られるご褒美が「清潔」であり、その上に「食の安全・安心」がある。
 整理・整頓は、清掃・洗浄・殺菌を行う前提条件である。整理・整頓ができていなければ、効率の良い清掃・洗浄・殺菌はできない。昔、小学校高学年になると教室の掃除当番が回ってきた。その時、椅子を机の上にのせ、教室の後ろに移動させる。何もなくなった前の方をほうきで掃き、ぞうきんがけをする。ついで、後ろに置いておいた机と椅子を掃除の終わった前方に移動し、残りの後ろ部分の掃除を同じように行い、最後に机と椅子を所定の位置に戻した。誰が考えて定着させた方法かわからないが、まさに、整理・整頓をまず行い、その上で清掃・洗浄を行っていたのである。
食品衛生7Sで防げた事例
 最近起こった某老舗の食品企業の場合、検討すべきことは、大きく分けると次の4点になり、もしも食品衛生7Sを実践していたならば防げた事例である。
1. トップの姿勢と責任(仕組み・システムの問題であり、ISO22000などが的確に動いておれば、起こらなかった)
2. 消費・賞味期限切れの原材料使用問題(食品衛生7Sの整理・整頓の問題であり、先入れ、先出し、定位置管理などができていれば起こらなかった)
3. 社内工場間での製品やりとりに伴う消費期限社内基準の問題(決められたルールをキチンと守る食品衛生7Sの躾の問題である)
4. 一般生菌数の基準値超過問題(基準値を超すほどの生菌数汚染を起こしたのは、食品衛生7Sの清掃・洗浄・殺菌ができておらず、清潔の必要性を理解していない証左。また、基準値を超したモノを出荷しないのはルールを守る躾の問題)
 この記事をお読みの読者の方は、ぜひ「我が社ではどうか?」という気持ちをもって、自社の衛生管理システムの再点検を行い、この事件を従業員教育の一部として朝礼の時などに使われることを推奨する。食品衛生7Sでは、整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌と共に、躾を重視している。今回の事件は、「して良いことと悪いこと」を的確に理解するのに大変良い事例と考える。さらに品質管理、品質保証担当者は、当該企業のHPの公告と関連する新聞記事などの切り抜きをしておかれることを勧める。危機管理の好事例ともいえるからである。
 食品衛生7Sの基盤に立った「食の安全・安心」の上には「企業の利益」が待っている。衛生管理の上に成り立つ「食の安全・安心」を担保するため,食品衛生7Sの実践をおすすめしたい。(図2
参考文献
米虫節夫、角野久史、冨島邦雄 監修
ISO22000のための食品衛生7S実践講座
(第1巻)食の安全を究める食品衛生7S(導入編)
(第2巻)食の安全を究める食品衛生7S(洗浄・殺菌編)
(第3巻)食の安全を究める食品衛生7S(実践編)
日科技連出版、2006.02.20 発行、A5版
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