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特別講座 - 天然着色料の分析について(1)
逆相薄層クロマトグラフィーによる食品中のウコン色素、クチナシ黄色素及びアナトー色素の分析
金城学院大学 薬学部 岡 尚男
1.はじめに
 オレンジ色あるいは黄色に着色された食品は、滋養がある、おいしそう、甘いといった印象を与え、人の食欲を刺激する。天然着色料の中にも多数のオレンジ-黄色系の色素があり、広く食品に使用されている。中でも、その代表例はウコン色素、クチナシ黄色素、アナトー色素と考えられる。本稿ではウコン色素、クチナシ黄色素、アナトー色素の逆相薄層クロマトグラフィー(TLC)による簡便な分析法を紹介する。
2. ウコン色素、クチナシ黄色素、アナト−色素について
 ウコン色素は、ショウガ科のウコンの地下茎の乾燥品から抽出して得られる黄色の色素で、カレ−粉、たくあん、高菜漬けなどの着色に用いられる。主成分のクルクミンは、水に難溶であるがアルコ−ルに溶けて黄色を呈し、アルカリに溶けて赤褐色を呈する。クチナシ黄色素は、アカネ科のクチナシの果実を水又はエタノ−ルで抽出、若しくは加水分解を経て得られる黄色色素で、麺類、キャンディ−、栗甘露煮などの着色に広く用いられている。色素成分のクロシン及びクロセチンはカロテノイド系の色素で、クロシンが加水分解するときクロセチンを生ずる。アナトー色素はベニノキ科ベニノキの種子の被覆物から抽出して得られる色素で、主色素はカロテノイド系色素のビキシン及びノルビキシンで、オレンジ-黄色を呈する。国内需要量が高く、ハム、ソーセージ、菓子類などに使用されている。なお、ノルビキシンはビキシンのメチルエステル部分が加水分解されたものであり、ノルビキシンのカリウム塩及びナトリウム塩は化学的合成添加物の「水溶性アナトー」として食品添加物公定書に収載されている。このように、これらオレンジ-黄色系のウコン色素、クチナシ黄色素、アナトー色素(水溶性アナトーを含む)は広く食品に使用されている。
3. TLC条件の検討
 ウコン色素、クチナシ黄色素及びアナトー色素を良好に分離同定できるTLC条件を種々検討したところ、Fig. 1に示すようにTLCプレートとして逆相C18を、展開溶媒としてアセトニトリル-テトラヒドロフラン-0.1mol/Lシュウ酸(7:8:7)を用いることにより、色素を良好に分離することができた。すなわち、ウコン色素のクルクミン、クチナシ黄色素のうちのクロセチン、アナトー色素のビキシンおよびノルビキシンはそれぞれRf値0.60、0.53、0.33、0.46に単独のスポットとして検出することができた。しかし、上述のごとくノルビキシンの塩である水溶性アナトーは、 種々検討を行ったがノルビキシンと同一のRf値を示し、分離することはできない。一方、クチナシ黄色素のうちクロシンはRf値0.85の主スポットとRf値0.80、0.75のふたつの副スポットに分離することができた(Fig. 1)。これらのスポットは詳細な検討結果より、Rf値0.85のスポットがtrans-クロシン、0.80が13-cis-クロシン、0.75がtrans-クロシンからグルコースが2個脱離したものであると推定している。
Fig.1 食品への応用(ラック色素/コチニール色素)
4. 食品中からの色素の精製
 汎用されている試料精製法の中で最も簡便迅速な手法と思われるC18カートリッジによる精製法を前回と同様に検討した。ウコン色素、クチナシ黄色素及びアナトー色素の食品からの抽出については、メタノール-水溶液あるいはメタノールが、適していると思われたので、この抽出液中の色素を精製することを念頭に置いて検討を加えた。すなわち、色素抽出液はそのままC18カートリッジに負荷されるので、その際のメタノール濃度と色素のC18カートリッジへの保持率について検討した。メタノール濃度を0〜100%まで変化させた溶液で、0.0001%のウコン色素溶液、0.0025%のクチナシ黄色素及びアナトー色素を調製し、その50mLをカートリッジに負荷した。保持率は色素負荷時に保持されない色素量を吸光度法により定量した。その結果、各色素ともに、メタノールが30%以下の場合は、ほぼ100%保持されるが、40%を超えると急速に保持率が低下し、70%以上になると保持率が20%以下であった。このことから、色素抽出溶液をC18カートリッジに保持する前に、メタノール濃度を30%以下になるように調整する必要があることが判明した。
 次に、30%メタノール水溶液の液量を50mL以上に増量して検討したが、100 mL以下の負荷容量では100%の保持率を示した。以上のことから、抽出した色素溶液を、メタノール濃度が30%以下になるよう水で希釈し、その全量が100mL以下であるならば、そのままカートリッジに各色素を保持させることができることが明らかとなった。C18カートリッジからの目的化合物の溶出は、通常メタノールを用いて行われるが、その必要量は化合物によって異なるので、0.0001%ウコン色素水溶液、0.0025%のクチナシ黄色素水溶液及びアナトー色素水溶液50mLをC18カートリッジに負荷し、1から10mLのメタノールを用いて検討した。定量は上述の二つの実験と同様に吸光度法により行った。その結果、5mLのメタノールを使用することにより、各色素はカートリッジから溶出することが判明した。これらのことからC18カートリッジによるウコン色素、クチナシ黄色素及びアナトー色素の精製は十分に可能であると判断し、Fig. 2に示す試料精製法を作成した。
5.市販食品への適用 
  試料中の夾雑物のRf値に与える影響を検討するために、市販食品89件(ウコン色素:21件、クチナシ黄色素:35件、アナトー色素:33件)を上述の精製法により精製し、逆相TLCにより分析し、その代表例をFig. 3に示した。また、TLC上における標準色素のRf値と試料中の色素のRf値の相違の度合いは前回と同様に、試料中色素のRf値(Ra)/標準色素のRf値(Rs)で表し、再現性はそれらの変動係数で評価した。各色素のスポットのRa/Rs値の平均値は0.99〜1.00、変動係数はすべて2.0%未満であった。このことは試料中の各色素のスポットは標準色素のそれらとほぼ同じ位置に現われ、再現性にも優れており、各色素を確実に同定できることを示している。したがって、今回ご紹介した方法はル−チン分析にも十分に適用できると考えられるので、本稿が読者のお役に立てれば幸いである。
謝辞

 本研究は、愛知県衣浦東部保健所 尾関尚子博士、愛知県食品衛生検査所 林 智子博士、岡崎市保健所 板倉裕子氏、愛知県衛生研究所 伊藤裕子博士、後藤智美博士らとの共同研究で実施されたものであり、その旨をここに記載し、謝意を表します。

文献

尾関尚子, 上野英二, 伊藤裕子, 岡 尚男, 林 智子, 板倉裕子,山田貞二, 松本 浩, 伊藤 徹, 圓山 皐, 鶴田益清, 宮澤孝彦, 食品衛生学雑誌, 41, 347-352, 2000.

略歴
岡 尚男(おか ひさお)
【勤務先・職】 金城学院大学薬学部 教授
【最終学歴】

名城大学薬学部(1970年)

【学位】

薬学博士(1986年)

【職歴】 愛知県豊橋保健所(1970年)
愛知県衛生研究所(1972-2005年)
【留学】

米国国立衛生研究所(NIH、1988-89年、一年間)

【受賞歴】 昭和62年度日本薬学会東海支部学術奨励賞(テトラサイクリン系抗生物質の化学的分析法に関する研究)
平成9年度年度日本食品衛生学会奨励賞(逆相クロマトグラフィー及び質量分析法の食品分析への応用)
【主な研究領域】 汎用抗生物質の化学的分析法の検討
向流クロマトグラフィーに関する研究
衛生化学分野におけるLC/MSの応用研究
【主な著書】

Current Issues in Regulatory Chemistry 共著 2000 AOAC INTERNATIONAL
Encyclopedia of Separation Science Vol.5(V) 共著 2000.5 Academic Press
日本薬学会編 衛生試験法・注解 2005 共著 2005.3金原出版 
第十五改正日本薬局方解説書 共著 2006 廣川書店

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