厚生労働省では、1998年からNVによる食中毒を小型球形ウイルス食中毒として発表してきました。しかし、2002年夏に国際ウイルス命名委員会によってノーウォークウイルス(我国でそれまで小型球形ウイルスと呼称していたもの)は、NVという正式名称が決定されたため、2003年5月食品衛生法施行規則を改正し、NV食中毒として統一しました。初めて発表された1998年は事件数で123件(4.2%)、1999年は116件(4.3%)でありましたが、2000年代になってからは、2000年の245件を除けば、平均270件で全体の事例数に占める割合も各年の平均は約16%で、カンピロバクターには及ばないものの腸炎ビブリオ、サルモネラと同等またはそれ以上です。病因物質別の患者数では、2001年以降5年連続でトップであり、毎年増加傾向にあります。特に2003年は10,603人で統計を取り始めて初めて1万人の大台になり食中毒患者全体に占める割合も36.1%と前年を大きく上回りました。また、2004年には、さらに増加して過去最高の12,537人、44.5%となりました。以上のことから、NVによる食中毒は1件当たりの患者数が多いということが伺えます。国立感染症研究所感染症情報センターの発表した2001/02シーズンから2005/06シーズンまでの全国のNVの週別検出状況から、毎年40週前後からウイルスが検出され始め、翌30 週過ぎまで続きます。検出のピークは47, 48週から翌4、5週までの10週間前後です。検出されるNVの遺伝子はGUが圧倒的に多く、GTは週に数株から10株程度です。NV検出法は、ほとんどPCR法での遺伝子検索ですが、一部では電子顕微鏡法も用いられています。
我国で発生するNVによる食中毒は2つのパターンに分類できます。1番目は、NVを保有している調理人や食品取扱者が食品を汚染させて、2次汚染した食品の喫食により感染するパターンで食中毒の事件数で約3/4、患者数で80数%あります。2番目は、NVに汚染されたカキ等2枚貝の生食によるもので事件数では約1/4、患者数では10数%です。
食中毒以外では、小児の感染性胃腸炎、保育園、幼稚園、小学校や高齢者施設等で集団発生事例等があります。全国各地の感染症情報センターからの報告分の集計では、小児の感染性胃腸炎患者からの散発事例を含めたNV検出は毎年年末から増加し、集団発生もこの時期に増加してきます。2004年と2005年には5月、6月にもNV検出報告が増加、特に、2005年は8月まで報告が続きました。したがって、感染性胃腸炎からの病原検索を行う場合は、季節を問わずNVの可能性も念頭に置くことが必要であります。また、2004/05シーズンには、広島県の特別養護老人ホームで発生した集団事例をはじめとして、全国各地の高齢者施設においてNV集団感染事例が発生し、死亡者が相次いだため注目されました。そこで、厚生労働省では、2005年1月10日、「高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延防止の徹底について」という文書によりNVの水平感染を防止することに主眼をおいた感染管理対策のさらなる充実の必要性を指示しています。これには、発生防止のための措置として、職員及び入居者の健康管理の徹底、食品調理時の衛生管理、発生時の措置として、連絡体制の構築、有症者への適切な対応、まん延防止のための適切な措置等が盛り込まれています。
このようにNVは、様々なルートで感染します。したがって、感染機会を減らすためには、手洗いやうがいを励行し、調理人の日常からの健康管理を図るとともに、食品の適正な管理等が必要になってきます。
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