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生カキを安心して食べていただくためには 
三重県健康福祉部健康危機管理室 西中 隆道
 「みえのカキ安心情報」とは!
 生カキを食べると下痢や嘔吐などの食中毒症状を呈することがあるが、その原因の多くがノロウイルスに起因することがわかってきました。特に生カキの生産地である三重県(伊勢保健所)では、カキを原因とするノロウイルス(以下「NV」という。)食中毒発生メカニズムの解明および予防対策を重要と考え、過去9年間にわたり養殖海域の海洋調査とウイルス浄化試験を実施してきました。その調査・研究から、カキによる健康被害の発生には6つの要因が関与していることが確認できたことから、これらの要因をカキによる食中毒発生の重要な予測要因として位置づけ、カキシーズン出荷中(10月〜翌年3月)は生産者や消費者に毎週海洋情報を「みえのカキ安心情報」として提供しています。
カキ食中毒発生予測6要因ってなあに?
 伊勢保健所では、平成9年からカキ養殖海域で海洋調査とNV浄化試験を実施してきました。その結果、過去に発生した伊勢志摩産カキによる健康被害には(1)伊勢湾周辺海域で感染性胃腸炎の流行(2)カキ養殖海域の水温が10℃以下となったとき、(3)一度に50ミリを超える雨が降り、河川水が大量に養殖海域に流入したとき、(4)カキからNV遺伝子が検出されたとき、(5)カキによる健康被害があったとき、(6)プランクトンから検出されるNV遺伝子動向及び消長の6要因の関与を確認し、特に複数の要因が重なる時期は、カキによる食中毒発生率も高くなることが確認できました。なかでも、感染性胃腸炎の流行と海水温の低下は健康被害発生の必須要因であり、さらに雨量や他の要因が加われば、リスク拡大につながることが確認できています。今回は以下に必須要因(2要因)のみをご紹介します。
(1)伊勢湾周辺海域で感染性胃腸炎の流行があったとき
 感染性胃腸炎という診断名は多種多様な原因によるものを包含する症候群でありますが、ウイルス性のものとしてはNV、腸管アデノウイルス、ロタウイルスなどがあげられます。例年冬期はウイルス性の胃腸炎が多く、いわゆる「お腹にくる風邪」の主因であるNVの流行が晩秋(11月)から増加し始め、12月にピークとなり春先まで続きます。また、NVは図1のように環境ウイルスとも呼ばれており、ヒトからヒトへ感染を続けたNVは糞便から大量に排出され、それが下水処理場に行き、そこをくぐり抜けた一部のウイルスが河川を通り養殖海域に流入し、海水中のプランクトンや有機物に付着します。カキはサザエやアワビなどの巻き貝と違って、海水中に浮遊する植物プランクトンを餌とし、カキの活性が旺盛な時期には1日に10億個以上のプランクトンを餌とするために大量の海水(1時間に約15L)を吸引しています。その際、NVがプランクトンとともに取り込まれ、中腸線(内臓)で濃縮されるため、この時期のカキを生食用として食べると、生カキによる健康被害が発生することがあるわけです。
(2)カキ養殖海域の水温が10℃以下となったとき
 図2は2002年度のU海域におけるカキ養殖海域の海洋データと健康被害発生状況です。同年度は感染性胃腸炎の流行が始まった後の12月30日に57oのまとまった雨がU海域に降り、大量の河川水が同海域に流入しました。その後の定点観測では複数のカキからノロウイルスが継続的に検出されています。まとまった雨と海水温(最低7℃)が続いたことから健康被害が相次ぎました。海水温の低下に加え、一度に大量の雨が降り、河川水が一気にカキ養殖海域に流入したことで健康被害の拡大につながったと考えられます。このことから、海水温がNV遺伝子の活性(ヒトへの感染性)に深く関与しているのではないかと考えられます。通常、NV遺伝子は水温に関係なく検出されますが、水温が10℃を下回らない限りこれまでカキによる健康被害の報告がないことから、水温の高い時期に検出されるNV遺伝子はヒトへの感染性のないものかと考えられます。
生カキを安心して食べていただくために
 消費者がカキを購入する際には、産地や品質、料理方法により「生食用」か「加熱調理用」のいずれかのカキを購入します。特に生食用のカキは、消費形態からより高い安全性が求められるため、国により厳しい成分規格(細菌数)が設定されています。しかし、ウイルスによる成分規格がないことから、現行の規格基準に適合していても100%安全が保証されたわけではありません。食の安全・安心を議論するなかで、100%安全な食材は存在しないと言われていますが、やはり消費者にとっては、より安心できる食材を購入したいと願うのは当然のことです。生カキを食べると下痢や嘔吐などの食中毒様症状を呈する人がいますが、それでも生でカキを食べたいという人も沢山います。
三重県では特にカキを生で食べたいと思う消費者に対して、カキの生産情報やウイルス検出情報などの海域情報を「みえのカキ安心情報」とし、積極的に公表しています。また、生産者や販売者には海洋情報等を提供することで衛生管理の徹底を図っていただけます。消費者が積極的に情報を活用していただければ、消費者の健全な判断力が養われていくと思います。また、消費者だけでなく生産者や販売者の利益にもつながっていくと確信しています。この場合、情報提供者はより透明性の高い情報を提供していく努力を惜しまないことが重要となります。是非とも、「みえのカキ安心情報」をご活用いただき、今シーズンも美味しいみえのカキを安心して食べていただきたいと願っています。
※みえのカキ安心情報アドレス http://www.pref.mie.jp/NHOKEN/kaki/
参考文献
(1) 三重県伊勢保健所:カキを原因とするSRSV食中毒予防対策について、
食品衛生研究、53,NO、10 55−58(2003)
(2) 三重県伊勢保健所:みえのカキ安心システムによる情報発信の新しい試み
食品衛生研究、55,NO、5  49−52(2005)
(3) 三重県伊勢保健所:―特集― カキを原因とする食中毒発生予測要因と予防対策
食品衛生研究、55,NO、10 17−24(2005)
著者略歴
西中 隆道(にしなか たかみち)
1978年 三重県職員(獣医師)として採用される
1984年 四日市保健所衛生指導課に勤務
1995年 四日市食肉衛生検査所主査
2000年 薬務食品室乳肉衛生課主幹
2006年 三重県健康福祉部健康危機管理室 食品監視グループ副室長に至る
図1
図2
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