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大量注入GC/MSを用いたポジティブリスト制対応への検討
財団法人 食品分析開発センターSUNATEC  小林尚 川瀬徹 菊川浩史 宮田守
目的
 ポジティブリスト制度の施行を前に、食品中の残留農薬分析では多種の農薬を一度に分析できる一斉分析法の需要が高まっています。
 一般的にGC/MSを用いた一斉分析では、SIMモードが使用されてますが、SIMモードでは選択イオンの数が少ない為に食品中の夾雑物質と区別がつきにくいこと、また、選択できるm/zの数に制限があることから一度に測定できる農薬の数に限りがあり、多くの農薬を測定する時には複雑なメソッドを作成する、もしくは複数回測定しなければならないという問題を抱えています。
 そこで本検討では、一度に多くの農薬を分析することが出来る「SCANモード」を使用し、またSCANモードでも感度を確保するために「大量注入」を行い、「極性の異なる2本の分離カラムを使用」することによって食品中の残留農薬を高精度で測定できたので報告します。
方法
 本検討では大量注入型のGC/MSとして、鞄津製作所のGPC-GC/MS(Prep-Q)システムを使用しました。
 使用する分離カラムは、低極性カラム(DB-5)と、中極性カラム(Rtx-200)を選択しました。これは、分離カラムの極性を変えることによって農薬の分離パターンを変化させ、一方のカラムでは分離できなかった食品成分と農薬とを分離させること、また農薬が検出された時、極性の異なる分離カラムで測定することにより確認がとれることを目的としています。尚、今回、温度条件が厳しい高極性カラムは使用しませんでした。
 分析条件は下記の通りです。
GC/MS:GPC-GC/MS-QP2010(鞄津製作所)
Column 1:不活性化フューズドシリカチューブ(5m,0.53mm)+DB-5(30m,0.25mmI.D.,0.25um)
Column 2:不活性化フューズドシリカチューブ(5m,0.53mm)+Rtx-200(30m,0.25mmI.D.,0.25um)
GC
 気化室:120℃
 注入法:Splitless(サンプリング時間:7min)
 注入量:280μL(サンプリング量:10μL)
 キャリアガス:He(48.8cm/sec,線速度一定)
 カラム温度:82℃(5min)→8℃/min→300℃(27.75min)
MS
 インターフェース温度:250℃
 イオン源温度:200℃ イオン化法:EI
 測定モード:SCAN (m/z 69〜430、0.5sec/scan)
 市販のイチゴ、ゴマ、ミカン(皮)等の作物を対象とし、試験溶液の調製方法は食安発第1129002号に示された「GC/MSによる農薬等の一斉試験法」1)に従って行いました。
測定対象成分は約400成分(異性体を含む)とし、添加濃度は0.1ppmとしました。
結果および考察
 図1. 標準試料 0.1ppmのTIC (上:DB-5,下:Rtx-200)
DB-5
検体
添加回収
RTX-200
検体
添加回収
図2. イチゴのイオンクロマトグラム
 農薬混合標準液の測定結果、図1のように分離カラムの極性の違いにより農薬の溶出パターンが変化していることが確認できました。これを利用して、図2のように一方の分離カラムでの測定結果では食品中の夾雑物質ピークが農薬と同じ保持時間に、同じm/zイオンで検出されていますが、もう一方の分離カラムではそれが解消できることが確認出来きました。また、大量注入により、SCANモードでも多成分が高感度で測定できました。
 このように、大量注入によるSCANモードでの測定と、極性の異なる2本の分離カラムを使用することによって、多くの農薬を精度良く測定できることが確認できました。
【参考文献】
1) 厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/dl/051129-1.pdf
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