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ポジティブリスト制導入について
効果的・効率的に検査を行うには?
ポジティブリスト制は検査を義務づけた制度、規格であるかとの問い合わせを頂くことがありますが、決して検査を義務つけるものではありません。しかし農薬の残留確認の科学的根拠も法律の残留基準を設定する根拠も検査によることも現実です。検査は補助的でありますがポジティブリスト制において重要な位置を占めるものです。

このような背景において、今回は検査機関の立場から、この「効果的・効率的に検査を行うには?」という内容で提案いたします。検査を依頼される際になにがしかの参考となれば幸いです。
目的の明確化
検査を始める前に先ず検査の目的を明確化することです。目的として
→ (1)リスク調査(農薬トレースが全くできない場合など)
→ (2)モニタリング(想定外の残留農薬リスクが無いか)
→ (3)管理(使用農薬が基準値以内であるか)
→ (4)保証(安全性が確保されているか)
等が考えられます。目的が(1)(2)であれば、コストが許す限り多項目を検査し、(3)(4)であれば(1)(2)のステップと農薬のトレース情報を集約の後に可能な限り項目を絞った検査することが肝要といえます。
検査項目と頻度の絞込み
次に検査の項目と頻度について考えてみたいと思います。
「検査は多くの農薬等について検査をやればやるほど良いのか?」これはある意味で正しいといえます。リスクはどこに隠れているかは分かりませんので、可能な限り多くの農薬等について検出の有無を調べれば調べるほどリスクは少なくなります。しかしながら、検査で残留のリスクを無くすには全数検査でしかなく膨大な検査コストが発生し現実的ではありません。また検査頻度については、検出される可能性のほぼ無い農薬等を含めてた項目の農薬を年に1度検査するより、検出される可能性の高い農薬等を年に複数回検査に出されるほうがより違反のリスクは少なくなるはずです。そのために検出される可能性の高い農薬等を把握することは、検査コストの低下に大きな影響を与えます。

それでは、検出される可能性の高い農薬等の情報の把握はどのように行うかについて方法を記します。
→ (1)使用履歴農薬
使用農薬のトレースが可能な地域及び作物は使用履歴農薬を調査します。これが最も基本的な情報収集です。更に周辺農場で使用している農薬、前作で使用した農薬で、ドリフト(非意図的散布の影響)や残留性の高い農薬の情報収集です。
→ (2)検出頻度・使用頻度の高い農薬
市場買いや管理体制の整っていない地域や生産者などで農薬情報がトレースできないものは、その地域や作物での検出事例を調査します。これらを調べるには多大の労力と専門的な情報ネットワークを必要とします。以下に参考となる資料を挙げさせていただきます。
【日本生協連「残留農薬データ集U」ISBN: 4873322197(CD-ROMも付属)】
過去の膨大な国内外の検査結果を一覧。また、作物、生産国による検出頻度の高い農薬等の記述があり、非常に参考になります。
【厚生労働省HP 「輸入食品監視業務ホームページ」】
ホームページアドレス:http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html
現在までの輸入届出時の食品衛生法違反の事例を紹介。5月29日以降は18年度モニタリング計画にあわせ、448農薬等についての違反事例速報として載せられると考えられます。違反事例としては非常に参考になると思われます。
社団法人 日本食品衛生協会「食品の残留農薬基準値(CD-ROM)」
ホームページアドレス:http://www.n-shokuei.jp/
基準策定の際の由来が分かります。表中に「参考基準国」として「登録、現行、海外、Codex等」のデータが入っています。検査対象の食品が国内産の場合はこの「登録:その作物に使用してよいとなっている農薬」に記載されている農薬が使用される可能性が高いのでこれを検査しようといった絞込みが可能です。
残留基準値が纏められているものは他に財団法人 日本食品科学研究振興財団HP(http://m5.ws001.squarestart.
ne.jp/zaidan/search.html
)もあります。
国立医薬品食品衛生研究所のHP「各国のモニタリング検査リンク集」
ホームページアドレス:http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/chemical/pest/monitor-link.html
各国での公開されているモニタリング結果のHPにリンクされています。輸入品等についてどのような農薬に検出例があるのかが調べられます。
このような情報を基に必要最小限の検査項目に絞込み費用を抑える事が良いと考えられます。

しかし、アジアに広く食材の供給を求めている日本においては、これだけの情報では不十分な場合もあります。施行当初のポジティブリスト基準はアメリカ・EU・オーストラリアなどの先進国の基準をもとに作られていますが、これら先進国の基準のみでは今回のポジティブリスト制における一律基準への対応が困難であります。例えば中国のみで使用されている農薬には、基準値が設けられていないものも存在し、検出例があるものも有ります。
検査機関の選択
徹底的な情報収集の後に、検査項目を絞り込み、どのような検査法を選択するかですが、基本的には精度が確保された一斉分析法が期間もコストも適切であるといえます。但し一斉分析法では精度が保てない項目や農薬の特性上一斉分析では不可能な項目には、個別分析法を選択することが必要です。
検査精度の保てない検査を実施するとリスクを内在化し、検査をすることによってリスクの拡大にもなりかねません。また、ポジティブリスト制導入にあわせて一斉分析法による検査サービスを実施している機関が数多くありますが、項目数や値段や検査内容がさまざまです。検査の精度を良く見極め検査を委託することが必要です。検査機関選択時の簡単確認ポイントを紹介します。
→ (1)分析器の保有
GC/MS,GC/MS/MS,LC/MS/MSは最低必要でプラスGCとHPLCの検出器の異なるものがあるか。
→ (2)成績書の記載事項
検出限界、代謝物や基準値との関連などの詳細情報が記載されているか。
→ (3)検出時の確定方法
確定検査をしているか。
→ (4)検査操作
一斉分析の通知法の前処理と同様な方法であるか。独自法であればその精度確認が通知法と同等との検証がされているか。検体の種類差による確認がなされているか(添加回収試験)。検査工程が間違いなく実施されたことが確認されているか。
→ (5)客観的評価
FAPAS、財団法人食品薬品安全センターなどの外部精度管理に参加して良好な成績が得られているか。登録検査機関に対する厚生局やISO審査機関などによる定期的外部監査が実施されているか。
最後に
「効果的・効率的に検査を行うには」のテーマで情報収集と検査方法の選択を中心に述べてきましたが、ポジティブリスト制に対して検査を委託するときに最も大切なことは、検査をすることを目的とせず真の安全を担保でき、「安全で・安くて・おいしい食品」が提供できる為に検査をご利用いただくことが大切であると考えます。
SUNATECは食品事業者の皆様に、少しでも精度が高く、早く、リーズナブルな残留農薬検査をご提供できるよう日々努めております。
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